壱太(いちた)は、走っていた。
商店街を店から店に。
デパート、駄菓子屋、文具店にスーパー、コンビニ、ケーキ屋にファンシーショップ。
明慧学園の制服のまま、紺色のダッフルコートの前をはだけているのは、ずっと走っているのでかなり暑いかららしい。
今季一番の寒気、耳が千切れそうに冷たくなっているというのに。
通学かばんを持っていないところを見ると、いったん家に帰ってあわてて走ってきたようだ。
店を出るたび、右、左きょろきょろして次の店に走る。なかなか探し物は見つからないのだ。
私立明慧大付属明慧学園高校1年B組18番 朝8時13分。
今朝、壱太の下駄箱には赤い包みと水色の包みが二つ。赤い包みにはハートのシール。水色の包みには青いリボン。
「なんだ?」
わけも分からぬままバックにしまい込み教室に行くと、机の中に更に3コ。
「何これ?」
思わずつぶやくと、隣の席の伊川宏輔がボソッと教えてくれた。
「今日さ、ヴァレンタイン・・・・」
そういう、宏輔の手元にはすでに紙袋一袋分の山ができている。
「へ?なんで?男子校なのに?」
「そんなの。恋愛に男も女もないじゃん」
ため息混じりにつぶやくのは、宏輔もこの現象に戸惑っているからだ。
いくら男子校といえど、どうして男の人に告られなきゃいけないのか、その度に頭を下げて断らなきゃいけないのは、人付き合いが苦手な宏輔にはとても緊張する場面なのだ。
「へえ!そうなの!男でも男にチョコ贈っていいんだ!」
壱太はぽんと手をたたくと、すげえな とつぶやいた。
だいたい、1年前まで壱太を取り巻く環境からは考えられない出来事で。いままでチョコなんてもらったことすらなかった。おまけに、普段はTVもほとんど見ないので、かなり世間には疎いのだ。
放課後、引き止める宏輔やもろもろの告白者を見向きもせず壱太はダッシュで校門を出た。
右手には通学かばん、左手には今日の収穫の山、一袋。
アパートの鍵をガチャガチャと開けると、荷物を玄関に放り投げ、本棚の上の豚の貯金箱に走る。壱太も他の同級生同様、一定額のお小遣いはもらっているが出来るだけそれには手をつけないようにしている。豚の貯金箱には、今年のお正月神社でのバイト代がまだ手付かずのままはいっているのだ。豚のお尻から3千円をつかむと(これでも壱太にとってはかなりの大金)そのまま走って飛び出した。
どこで買えばいいのか、とりあえず、駅前のデパートに向かう。デパートの中は、人酔いしてしまうほど女の子の山。そしてその前には一粒500円もの高級チョコ。
これじゃない。女性陣を押しのけ、何とか出口にたどり着き、次は商店街に走る。
駄菓子屋、文具店にスーパー、コンビニ、ケーキ屋にファンシーショップ・・・。
商店街の本屋の2階から、うろうろ走り回る壱太を見つけた明仁(あきひと)は、いそいで表に出てみたがすでに壱太の姿はそこにはなかった。
「あれ?今いたような気がしたのに」
「うわ、寒い」
あわててマフラーを巻く。すでに一番星が輝いている冬の夕暮れ。一気に夜の闇が夜空を覆っていた。
仕方なく家路についた明仁の前方に小さな雑貨屋から出てきた壱太が、また右左を見回し、空を見上げていた。走り通しだったので息も荒い。
実は、闇雲に走って今自分がいる場所が把握できていないのだ。
多分・・・西はこっち・・・?あれ?人差し指をなめて風向きを調べ、とりあえず右側に歩いていくことにした。無謀な迷子は怖い。
でももう走らないところをみると、買い物の目的は達成できたようだ。
前方を夜空を見上げながら歩く壱太に、明仁は後ろから肩にだきついた。
「迷子のお坊ちゃん、おうちはそちらじゃないですよ」
「あ!明仁!」
商店街のど真ん中。シャッターを下ろす店も増えて真冬の通りは人影もまばら。
おまけに雪まで降ってきて、どんどん気温は下がるばかり。
道行く人は、暖気を逃がさないように足早に通り過ぎていく。
吐き出す息が白い。
「何をそんなに走り回っていたの?耳も真っ赤だし鼻の頭も真っ赤だよ」
「今さ、明仁んちに行こうと思ってたんだよ!会えてよかった!」
「あ?うちもこっちじゃないぞ・・・」
「あ・・・へへ」
壱太は、青いリボンの青い包みを取り出す。
「はいこれ・・・やる」
「もしかしてチョコ?」
壱太の手がちょっとだけ、震えているのが分かる。顔が真っ赤になっている。
だけど、指先は氷のように冷たい。
「開けていい?」
包みから出てきたのは、バイクの形をしたチョコレート。
「おまえ、これを探して走り回ってたの?」
「あ?え?見てたの?・・・へへ・・・」
「バレンタインって1年に1回だから・・・・・・・やっぱ、返して!」
ひったくると、またあらぬほうに走っていこうとする壱太。
きゅっと手をつかんで引き戻す。
「うちはこっちだって」
明仁は壱太の手を握ってポケットに入れて歩き出した。
「また、バイク乗せて」
明仁に手を繋がれて、壱太の心臓はさっきからどきどき。
衝動でチョコを上げてしまったけど本当はちょっと後悔していた。
だって、明仁は何にも言ってくれない。
「俺、今日誰からももらわなかったよ、壱太」
いきなり立ち止まった明仁が優しく話しかける。
「壱太・・・おまえ、何その顔」
耳と鼻の頭が真っ赤で、おまけに涙でぐちゃぐちゃになっている。
「壱太、ありがと」
両手で壱太のほっぺたを包むと、真っ赤な鼻の頭にキスをひとつ。
「春になったら、ツーリング行こうな」
流れる涙にキスをみっつ。瞼にもふたつ。
「壱太、大好きだよ」
ついばむように唇にキスを100万回。
それから。
壱太は明仁の背中に手を回して、
「俺も 明仁、大好き」
ってキスを返した。
大好きな明仁にチョコが渡せて壱太はそれだけで幸せ。
<おしまい>
明仁(大学生) X 壱太(高校1年生)
本編はこちら→ 壱太の夕焼け
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バレンタインにあわせて、とりあえず短編です♪
明仁と壱太、新しい二人です、よろしくねん。
コメントなどいただけると嬉しいです。
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
商店街を店から店に。
デパート、駄菓子屋、文具店にスーパー、コンビニ、ケーキ屋にファンシーショップ。
明慧学園の制服のまま、紺色のダッフルコートの前をはだけているのは、ずっと走っているのでかなり暑いかららしい。
今季一番の寒気、耳が千切れそうに冷たくなっているというのに。
通学かばんを持っていないところを見ると、いったん家に帰ってあわてて走ってきたようだ。
店を出るたび、右、左きょろきょろして次の店に走る。なかなか探し物は見つからないのだ。
私立明慧大付属明慧学園高校1年B組18番 朝8時13分。
今朝、壱太の下駄箱には赤い包みと水色の包みが二つ。赤い包みにはハートのシール。水色の包みには青いリボン。
「なんだ?」
わけも分からぬままバックにしまい込み教室に行くと、机の中に更に3コ。
「何これ?」
思わずつぶやくと、隣の席の伊川宏輔がボソッと教えてくれた。
「今日さ、ヴァレンタイン・・・・」
そういう、宏輔の手元にはすでに紙袋一袋分の山ができている。
「へ?なんで?男子校なのに?」
「そんなの。恋愛に男も女もないじゃん」
ため息混じりにつぶやくのは、宏輔もこの現象に戸惑っているからだ。
いくら男子校といえど、どうして男の人に告られなきゃいけないのか、その度に頭を下げて断らなきゃいけないのは、人付き合いが苦手な宏輔にはとても緊張する場面なのだ。
「へえ!そうなの!男でも男にチョコ贈っていいんだ!」
壱太はぽんと手をたたくと、すげえな とつぶやいた。
だいたい、1年前まで壱太を取り巻く環境からは考えられない出来事で。いままでチョコなんてもらったことすらなかった。おまけに、普段はTVもほとんど見ないので、かなり世間には疎いのだ。
放課後、引き止める宏輔やもろもろの告白者を見向きもせず壱太はダッシュで校門を出た。
右手には通学かばん、左手には今日の収穫の山、一袋。
アパートの鍵をガチャガチャと開けると、荷物を玄関に放り投げ、本棚の上の豚の貯金箱に走る。壱太も他の同級生同様、一定額のお小遣いはもらっているが出来るだけそれには手をつけないようにしている。豚の貯金箱には、今年のお正月神社でのバイト代がまだ手付かずのままはいっているのだ。豚のお尻から3千円をつかむと(これでも壱太にとってはかなりの大金)そのまま走って飛び出した。
どこで買えばいいのか、とりあえず、駅前のデパートに向かう。デパートの中は、人酔いしてしまうほど女の子の山。そしてその前には一粒500円もの高級チョコ。
これじゃない。女性陣を押しのけ、何とか出口にたどり着き、次は商店街に走る。
駄菓子屋、文具店にスーパー、コンビニ、ケーキ屋にファンシーショップ・・・。
商店街の本屋の2階から、うろうろ走り回る壱太を見つけた明仁(あきひと)は、いそいで表に出てみたがすでに壱太の姿はそこにはなかった。
「あれ?今いたような気がしたのに」
「うわ、寒い」
あわててマフラーを巻く。すでに一番星が輝いている冬の夕暮れ。一気に夜の闇が夜空を覆っていた。
仕方なく家路についた明仁の前方に小さな雑貨屋から出てきた壱太が、また右左を見回し、空を見上げていた。走り通しだったので息も荒い。
実は、闇雲に走って今自分がいる場所が把握できていないのだ。
多分・・・西はこっち・・・?あれ?人差し指をなめて風向きを調べ、とりあえず右側に歩いていくことにした。無謀な迷子は怖い。
でももう走らないところをみると、買い物の目的は達成できたようだ。
前方を夜空を見上げながら歩く壱太に、明仁は後ろから肩にだきついた。
「迷子のお坊ちゃん、おうちはそちらじゃないですよ」
「あ!明仁!」
商店街のど真ん中。シャッターを下ろす店も増えて真冬の通りは人影もまばら。
おまけに雪まで降ってきて、どんどん気温は下がるばかり。
道行く人は、暖気を逃がさないように足早に通り過ぎていく。
吐き出す息が白い。
「何をそんなに走り回っていたの?耳も真っ赤だし鼻の頭も真っ赤だよ」
「今さ、明仁んちに行こうと思ってたんだよ!会えてよかった!」
「あ?うちもこっちじゃないぞ・・・」
「あ・・・へへ」
壱太は、青いリボンの青い包みを取り出す。
「はいこれ・・・やる」
「もしかしてチョコ?」
壱太の手がちょっとだけ、震えているのが分かる。顔が真っ赤になっている。
だけど、指先は氷のように冷たい。
「開けていい?」
包みから出てきたのは、バイクの形をしたチョコレート。
「おまえ、これを探して走り回ってたの?」
「あ?え?見てたの?・・・へへ・・・」
「バレンタインって1年に1回だから・・・・・・・やっぱ、返して!」
ひったくると、またあらぬほうに走っていこうとする壱太。
きゅっと手をつかんで引き戻す。
「うちはこっちだって」
明仁は壱太の手を握ってポケットに入れて歩き出した。
「また、バイク乗せて」
明仁に手を繋がれて、壱太の心臓はさっきからどきどき。
衝動でチョコを上げてしまったけど本当はちょっと後悔していた。
だって、明仁は何にも言ってくれない。
「俺、今日誰からももらわなかったよ、壱太」
いきなり立ち止まった明仁が優しく話しかける。
「壱太・・・おまえ、何その顔」
耳と鼻の頭が真っ赤で、おまけに涙でぐちゃぐちゃになっている。
「壱太、ありがと」
両手で壱太のほっぺたを包むと、真っ赤な鼻の頭にキスをひとつ。
「春になったら、ツーリング行こうな」
流れる涙にキスをみっつ。瞼にもふたつ。
「壱太、大好きだよ」
ついばむように唇にキスを100万回。
それから。
壱太は明仁の背中に手を回して、
「俺も 明仁、大好き」
ってキスを返した。
大好きな明仁にチョコが渡せて壱太はそれだけで幸せ。
<おしまい>
明仁(大学生) X 壱太(高校1年生)
本編はこちら→ 壱太の夕焼け
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バレンタインにあわせて、とりあえず短編です♪
明仁と壱太、新しい二人です、よろしくねん。
コメントなどいただけると嬉しいです。
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。
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「父さん、母さん、にいな、じいちゃん、ばあちゃん、それじゃあ行ってきます。8月になったら・・・また帰るから」
壱太(いちた)はそう言うと、叔父の待つレンタカーの助手席に滑り込んだ。
袖口できゅっと瞼を押さえる。そっと、ハンカチが差し出される。
「ちーちゃん、ありがと・・」
泣くもんか。大丈夫。きっと大丈夫。
3月末日。
壱太は、高校進学のため住み慣れたこの山間の古い家を離れ、東京に勤める叔父の下から高校に通うことになったのだ。
叔父といっても母より一回り若い25歳、一人暮らしのアパートに居候させてもらうことになっている。まだ山肌には雪が残る峠道を通り過ぎ、高速道路に乗って7時間。ようやく目的のアパートについた。
「さあ、ついたよ。とりあえず荷物運んだらゆっくり休もう〜」
壱太はダンボールをひとつと大切なリュックを背負うと、叔父の後について部屋に入った。
2DKのちょっと古めのアパート。
「千尋(ちひろ)ちゃん、これからお世話になります、宜しくお願いします」
「ウン、こちらこそ宜しくね。本当はもっと色々教えてあげたいんだけど、俺明日から仕事が立て込んでて。帰りもちょっと遅くなっちゃうけど大丈夫かな」
「大丈夫!俺、料理も得意だし!明日は、ココ掃除してこの町の探検に行ってくるから」
狭いダイニングキッチンと足を折りたたまないとは入れないお風呂。それでも、壱太のために小さな和室が用意されていたことは、千尋にできる精一杯の壱太へのプレゼントだった。
「学校はここから2キロくらいだよ。自転車がいるかな」
「大丈夫!俺、いっつももっと歩いてたよ」
ちょっと大き目の釣り目がくるくる動く。にっっと笑うと左側にえくぼが見える。
どちらかといえばピンクががった肌は、なかなか日に焼けない体質のようだ。
15歳。好奇心がいっぱいの壱太が千尋にはちょっと眩しい。
引越しそばを食べて、牛乳でカンパイし、千尋と壱太は今日から家族になった。
壱太とは10歳しか違わない千尋という名の叔父。
叔父の生活を邪魔しているのではないか、と問うと
「壱太と一緒に暮らせて嬉しいよ」
と母に良く似た面差しでやさしく笑う。
「壱太が高校へ行って、大学を出るまでずっと一緒にいようね、約束だよ」
壱太と千尋は指きりげんまんで約束して、また乾杯した。
和室の隅には古ぼけた勉強机。
千尋が使っていたのを譲ってくれた。それから小さな本棚。
そっとリュックを開けると、壱太は大事そうに写真たてを取り出し、本棚の上に並べる。
父と妹を抱いた母と笑っている壱太。厳格そうな祖父と優しい瞳の祖母。
みんなの顔を指でそっと撫でながら、改めて始まる新生活に不安と興奮を覚えた。
「俺、大丈夫だからな」
「大丈夫、大丈夫」
これは壱太のおまじない。
いつだって、壱太を奮い立たせてくれる魔法のことば。
→壱太の夕焼け 2へ
明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
壱太のお話ようやく始まります♪
けっこうけなげな子なのでかわいがってやってくださいまし。
コメントやメールなどいただけるととっても嬉しいです(^^)
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
壱太(いちた)はそう言うと、叔父の待つレンタカーの助手席に滑り込んだ。
袖口できゅっと瞼を押さえる。そっと、ハンカチが差し出される。
「ちーちゃん、ありがと・・」
泣くもんか。大丈夫。きっと大丈夫。
3月末日。
壱太は、高校進学のため住み慣れたこの山間の古い家を離れ、東京に勤める叔父の下から高校に通うことになったのだ。
叔父といっても母より一回り若い25歳、一人暮らしのアパートに居候させてもらうことになっている。まだ山肌には雪が残る峠道を通り過ぎ、高速道路に乗って7時間。ようやく目的のアパートについた。
「さあ、ついたよ。とりあえず荷物運んだらゆっくり休もう〜」
壱太はダンボールをひとつと大切なリュックを背負うと、叔父の後について部屋に入った。
2DKのちょっと古めのアパート。
「千尋(ちひろ)ちゃん、これからお世話になります、宜しくお願いします」
「ウン、こちらこそ宜しくね。本当はもっと色々教えてあげたいんだけど、俺明日から仕事が立て込んでて。帰りもちょっと遅くなっちゃうけど大丈夫かな」
「大丈夫!俺、料理も得意だし!明日は、ココ掃除してこの町の探検に行ってくるから」
狭いダイニングキッチンと足を折りたたまないとは入れないお風呂。それでも、壱太のために小さな和室が用意されていたことは、千尋にできる精一杯の壱太へのプレゼントだった。
「学校はここから2キロくらいだよ。自転車がいるかな」
「大丈夫!俺、いっつももっと歩いてたよ」
ちょっと大き目の釣り目がくるくる動く。にっっと笑うと左側にえくぼが見える。
どちらかといえばピンクががった肌は、なかなか日に焼けない体質のようだ。
15歳。好奇心がいっぱいの壱太が千尋にはちょっと眩しい。
引越しそばを食べて、牛乳でカンパイし、千尋と壱太は今日から家族になった。
壱太とは10歳しか違わない千尋という名の叔父。
叔父の生活を邪魔しているのではないか、と問うと
「壱太と一緒に暮らせて嬉しいよ」
と母に良く似た面差しでやさしく笑う。
「壱太が高校へ行って、大学を出るまでずっと一緒にいようね、約束だよ」
壱太と千尋は指きりげんまんで約束して、また乾杯した。
和室の隅には古ぼけた勉強机。
千尋が使っていたのを譲ってくれた。それから小さな本棚。
そっとリュックを開けると、壱太は大事そうに写真たてを取り出し、本棚の上に並べる。
父と妹を抱いた母と笑っている壱太。厳格そうな祖父と優しい瞳の祖母。
みんなの顔を指でそっと撫でながら、改めて始まる新生活に不安と興奮を覚えた。
「俺、大丈夫だからな」
「大丈夫、大丈夫」
これは壱太のおまじない。
いつだって、壱太を奮い立たせてくれる魔法のことば。
→壱太の夕焼け 2へ
明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
壱太のお話ようやく始まります♪
けっこうけなげな子なのでかわいがってやってくださいまし。
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明仁(あきひと)はそこから眺める景色が好きだ。
町を一望できる高台。
「日向が丘公園」は丘というよりはちょっとした小山で、ふもとの町から公園まで散策というものではなく、ハイキングといえるほどの山道を登らねばいけない。
おまけに、車一台分がやっとの道はUターンを出来るスペースも無い。
というわけで、この公園に足を運ぶのはよっぽどの暇人か健脚の持ち主だ。
明仁はこのひとけの無い公園で、のんびり本を読んだり町を眺めるのが好きだ。
時折愛車のバイクで、ちょっとしたワインディングを楽しんで、悦に入っている。
今日も、春の日差しに誘われて一走りし、公園で一服したところだ。
「バイトを済ませんたらまた来よう、今日は絶対夕焼けがキレイだろうな」
とつぶやくと、今来た道を引き返すことにした。
バイクにまたがり、エンジンをかけると、坂道を息を切らせて少年があがってくるのが見える。
すれ違い様、少年はにっこりと笑って頭を下げた。
数時間後、4月に入ったとはいえ、夕暮れ時は結構冷え込むな、と思いながら明仁はバイクを走らせあの丘に向かった。
道の端に止め、階段を数段上がると、目の前の広場では、先ほどの少年が街を見下ろしている。
人指し指をぺろっとなめて、目の前に突き立てると風向きを調べて、
「大丈夫、大丈夫、こんどこそ大丈夫!」
と3回唱えて、意を決したように坂道を下り始めた。
「ちょっと!そこの中坊、まって!」
びくっと立ち止まる少年。
「な、なに?」
「おまえ、もしかしてこの公園初めて?」
「え・・・うん」
「もしかしなくても、その道は上がってきた道じゃないよ」
「あ・・・・」
いきなり、知らない男の人に声をかけられ、きつく忠告されると今まで我慢していた不安や焦りが一気にこみ上げ、口をへの字に結んでいるのに目からは大粒の涙がぽとり。
「あれ、ごめんね・・・きつくて。えっと帰り道がわかんないのかな」
こくんとうなづく少年。
実はこの日向が丘公園は、行きはよいよい帰りは怖いといわれる、迷路のような道のつくりになっている。
麓からのワインディングロードが3本。それに沿ってたこの足のように複数の横道が街の四方に伸びて街のどの方向からでも、頂上にたどり着けるようなつくりだ。逆に言うと一本、道を間違えるとあらぬ方向に出てしまい、家路にたどり着くことが出来ない。
「俺、俺 もう中坊じゃないし・・・」
泣きじゃくりながら、答える少年に明仁はくすっと笑った。
(肝心なのはそこじゃないだろ)
「んじゃ、高校生?」
「うん、明慧(めいけい)学園の1年生になる」
「そっか!んじゃ俺の後輩だな。俺は伊川明仁だよ、明慧大生。はい。」
といって学生証を見せる。
「もう泣くな、家まで送って行ってやるから」
「・・・ほんと?」
「大丈夫、安心しな、俺配達のバイトしてるから、たいていの場所は分かるよ。で家はどこ?」
「えっと・・・・・・コンビニが近くにあって・・・・高校から2キロで・・・、そばに天満神社がある・・・えっと」
「ん?」
「俺、きのう引っ越してきたばかりで・・・そうだ!善書店の近く!・・・・わかる?」
「天満神社に、善書店・・・なんだ、俺んちの近所だよ」
その言葉に安心したのか、少年の目から更にぼーぼーと涙が溢れる。
「ほらほら、もう泣かないで。夕焼けがキレイでしょう?ここから見下ろすこの街は絶品なんだよ」
「おれ、夕焼け嫌い・・・・・・」
ぐずぐず泣きながら、口をへの字に曲げる男の子。
(負けず嫌いな子だな)
明仁はくすりと笑う。
「さあ、暮れちゃう前に家まで送ってあげる、あれの後ろに乗って」
指差した先には、大型バイク。
「あ・・・KATANA・・・・」
「知ってるの?」
「ウン、父さんが乗ってた」
「そっか、じゃあ、後ろに乗ったら俺の腰に手を回してギュっと握ってね、振り落とされないように」
「うん!」
少年の記憶を頼りに何とかアパートまで送り届けると、
「イカワアキヒトさん、ありがとうございました!本当に助かりました!」
ぺこりと頭を下げた。
「明仁でいいよ。気にすんな。あの公園はみんな迷子になっちゃうんだよ」
「あ!明仁!おれ、中山壱太です!」
(おいおい、いきなり呼び捨てか、少年)
「壱太、おまえ面白いな、ははは」
何のことか分からず、きょとんとする壱太の頭をぐりぐりと撫でると、明仁は じゃあな といってバイクを走らせた。
これが明仁と壱太の最初の一日。
絶対忘れられない大事な大事な一日。
壱太の夕焼け 1へ← →壱太の夕焼け 3へ
明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は明仁との出会い編です〜。
壱太、泣きすぎ!
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
町を一望できる高台。
「日向が丘公園」は丘というよりはちょっとした小山で、ふもとの町から公園まで散策というものではなく、ハイキングといえるほどの山道を登らねばいけない。
おまけに、車一台分がやっとの道はUターンを出来るスペースも無い。
というわけで、この公園に足を運ぶのはよっぽどの暇人か健脚の持ち主だ。
明仁はこのひとけの無い公園で、のんびり本を読んだり町を眺めるのが好きだ。
時折愛車のバイクで、ちょっとしたワインディングを楽しんで、悦に入っている。
今日も、春の日差しに誘われて一走りし、公園で一服したところだ。
「バイトを済ませんたらまた来よう、今日は絶対夕焼けがキレイだろうな」
とつぶやくと、今来た道を引き返すことにした。
バイクにまたがり、エンジンをかけると、坂道を息を切らせて少年があがってくるのが見える。
すれ違い様、少年はにっこりと笑って頭を下げた。
数時間後、4月に入ったとはいえ、夕暮れ時は結構冷え込むな、と思いながら明仁はバイクを走らせあの丘に向かった。
道の端に止め、階段を数段上がると、目の前の広場では、先ほどの少年が街を見下ろしている。
人指し指をぺろっとなめて、目の前に突き立てると風向きを調べて、
「大丈夫、大丈夫、こんどこそ大丈夫!」
と3回唱えて、意を決したように坂道を下り始めた。
「ちょっと!そこの中坊、まって!」
びくっと立ち止まる少年。
「な、なに?」
「おまえ、もしかしてこの公園初めて?」
「え・・・うん」
「もしかしなくても、その道は上がってきた道じゃないよ」
「あ・・・・」
いきなり、知らない男の人に声をかけられ、きつく忠告されると今まで我慢していた不安や焦りが一気にこみ上げ、口をへの字に結んでいるのに目からは大粒の涙がぽとり。
「あれ、ごめんね・・・きつくて。えっと帰り道がわかんないのかな」
こくんとうなづく少年。
実はこの日向が丘公園は、行きはよいよい帰りは怖いといわれる、迷路のような道のつくりになっている。
麓からのワインディングロードが3本。それに沿ってたこの足のように複数の横道が街の四方に伸びて街のどの方向からでも、頂上にたどり着けるようなつくりだ。逆に言うと一本、道を間違えるとあらぬ方向に出てしまい、家路にたどり着くことが出来ない。
「俺、俺 もう中坊じゃないし・・・」
泣きじゃくりながら、答える少年に明仁はくすっと笑った。
(肝心なのはそこじゃないだろ)
「んじゃ、高校生?」
「うん、明慧(めいけい)学園の1年生になる」
「そっか!んじゃ俺の後輩だな。俺は伊川明仁だよ、明慧大生。はい。」
といって学生証を見せる。
「もう泣くな、家まで送って行ってやるから」
「・・・ほんと?」
「大丈夫、安心しな、俺配達のバイトしてるから、たいていの場所は分かるよ。で家はどこ?」
「えっと・・・・・・コンビニが近くにあって・・・・高校から2キロで・・・、そばに天満神社がある・・・えっと」
「ん?」
「俺、きのう引っ越してきたばかりで・・・そうだ!善書店の近く!・・・・わかる?」
「天満神社に、善書店・・・なんだ、俺んちの近所だよ」
その言葉に安心したのか、少年の目から更にぼーぼーと涙が溢れる。
「ほらほら、もう泣かないで。夕焼けがキレイでしょう?ここから見下ろすこの街は絶品なんだよ」
「おれ、夕焼け嫌い・・・・・・」
ぐずぐず泣きながら、口をへの字に曲げる男の子。
(負けず嫌いな子だな)
明仁はくすりと笑う。
「さあ、暮れちゃう前に家まで送ってあげる、あれの後ろに乗って」
指差した先には、大型バイク。
「あ・・・KATANA・・・・」
「知ってるの?」
「ウン、父さんが乗ってた」
「そっか、じゃあ、後ろに乗ったら俺の腰に手を回してギュっと握ってね、振り落とされないように」
「うん!」
少年の記憶を頼りに何とかアパートまで送り届けると、
「イカワアキヒトさん、ありがとうございました!本当に助かりました!」
ぺこりと頭を下げた。
「明仁でいいよ。気にすんな。あの公園はみんな迷子になっちゃうんだよ」
「あ!明仁!おれ、中山壱太です!」
(おいおい、いきなり呼び捨てか、少年)
「壱太、おまえ面白いな、ははは」
何のことか分からず、きょとんとする壱太の頭をぐりぐりと撫でると、明仁は じゃあな といってバイクを走らせた。
これが明仁と壱太の最初の一日。
絶対忘れられない大事な大事な一日。
壱太の夕焼け 1へ← →壱太の夕焼け 3へ
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今日は明仁との出会い編です〜。
壱太、泣きすぎ!
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千尋はいつも帰りが遅い。
広告代理店の下請けの下請け。小さなオフィスで商業デザイナーの仕事をしている。といっても新聞折込や、雑誌の広告などであまりクリエイティブな仕事とはいえないが、人と付き合うことが苦手な千尋にとってはパソコンに向かってのデスクワークはありがたいらしい。打ち合わせは営業がしてくれるから、自分が出て行く必要も無い。
仲間はコンペなどに作品を出して、仕事のレベルUPを狙っているが千尋にはそんな欲も無い。ただ、今の環境を死守せねばとは思っている。
給料はそこそこで、何とか壱太を養っても食べていける。預かっているお金はあるけれど、出来ればそれには手をつけたくない。
今日も帰宅は23時。
「ただいまー」
灯りのともる部屋に帰れるのは、何とほっとすることか。
「お帰り、ちーちゃん!ゴハンまだでしょう?今日は肉じゃがと秋刀魚だよ」
壱太は、料理が得意だ。田舎料理ばかりだけど。いわゆるおふくろの味という奴だ。
炊き立てのご飯とあったかいお味噌汁と美味しいおかずと壱太の笑顔。
しあわせだなあ と思う。
父と母を相次いで野辺に送ってから3年がたつ。
恋人もいない。あれからずっと。
ご飯を食べながら
「壱太がいてくれるから、すごく幸せだよ」
千尋が笑ってにっこり言うと、
「おれもちーちゃんと一緒ですごく嬉しい」
と壱太も返す。
「あのね、今日ね」
壱太の入れてくれた日本茶は程よい温度で、ちょっとだけ渋みもあって二人でまったりしながら一日の出来事を千尋に聞かせる。
壱太に言わせるとこの町の人はみないい人ばかりで、とても住み良いらしい。
「うんうん」
「明日はいよいよ入学式だね。なんだか嬉しいよね。壱太にいっぱい友達が出来るといいな」
「僕もね、明慧なんだよ。それから壱太のお母さんは明慧大だったよ。」
「毎日がすごく楽しくって、いっぱい友達が出来て・・・だから壱太にもこの学校に入って欲しかったんだ」
大好きなちーちゃんの通った高校。それからお母さんが通った大学。
それから・・・・。
千尋にまだ報告していない壱太だけの秘密。
バイクに乗せてもらった明仁を思い出して。
なんだかまだ始まらない明慧学園が大スキになった。
明日はいよいよ入学式。
ちーちゃんは午前中は会社を休んで、壱太と一緒に臨んでくれる。
母はいないけれども、母に良く似た綺麗でやさしいちーちゃんが一緒に行ってくれるだけで壱太はうれしい。
千尋が喜んでくれるから壱太は幸せ。
誰にも内緒の秘密をひとつ。
ポット心が嬉しくなる思い出がひとつあって壱太はやっぱり幸せ。
壱太の夕焼け 2へ← →壱太の夕焼け 4へ
明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キスすらない!ああこれじゃあ児童文学・・・欲求不満になりそうです^^;
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
広告代理店の下請けの下請け。小さなオフィスで商業デザイナーの仕事をしている。といっても新聞折込や、雑誌の広告などであまりクリエイティブな仕事とはいえないが、人と付き合うことが苦手な千尋にとってはパソコンに向かってのデスクワークはありがたいらしい。打ち合わせは営業がしてくれるから、自分が出て行く必要も無い。
仲間はコンペなどに作品を出して、仕事のレベルUPを狙っているが千尋にはそんな欲も無い。ただ、今の環境を死守せねばとは思っている。
給料はそこそこで、何とか壱太を養っても食べていける。預かっているお金はあるけれど、出来ればそれには手をつけたくない。
今日も帰宅は23時。
「ただいまー」
灯りのともる部屋に帰れるのは、何とほっとすることか。
「お帰り、ちーちゃん!ゴハンまだでしょう?今日は肉じゃがと秋刀魚だよ」
壱太は、料理が得意だ。田舎料理ばかりだけど。いわゆるおふくろの味という奴だ。
炊き立てのご飯とあったかいお味噌汁と美味しいおかずと壱太の笑顔。
しあわせだなあ と思う。
父と母を相次いで野辺に送ってから3年がたつ。
恋人もいない。あれからずっと。
ご飯を食べながら
「壱太がいてくれるから、すごく幸せだよ」
千尋が笑ってにっこり言うと、
「おれもちーちゃんと一緒ですごく嬉しい」
と壱太も返す。
「あのね、今日ね」
壱太の入れてくれた日本茶は程よい温度で、ちょっとだけ渋みもあって二人でまったりしながら一日の出来事を千尋に聞かせる。
壱太に言わせるとこの町の人はみないい人ばかりで、とても住み良いらしい。
「うんうん」
「明日はいよいよ入学式だね。なんだか嬉しいよね。壱太にいっぱい友達が出来るといいな」
「僕もね、明慧なんだよ。それから壱太のお母さんは明慧大だったよ。」
「毎日がすごく楽しくって、いっぱい友達が出来て・・・だから壱太にもこの学校に入って欲しかったんだ」
大好きなちーちゃんの通った高校。それからお母さんが通った大学。
それから・・・・。
千尋にまだ報告していない壱太だけの秘密。
バイクに乗せてもらった明仁を思い出して。
なんだかまだ始まらない明慧学園が大スキになった。
明日はいよいよ入学式。
ちーちゃんは午前中は会社を休んで、壱太と一緒に臨んでくれる。
母はいないけれども、母に良く似た綺麗でやさしいちーちゃんが一緒に行ってくれるだけで壱太はうれしい。
千尋が喜んでくれるから壱太は幸せ。
誰にも内緒の秘密をひとつ。
ポット心が嬉しくなる思い出がひとつあって壱太はやっぱり幸せ。
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
キスすらない!ああこれじゃあ児童文学・・・欲求不満になりそうです^^;
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。
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「ほぉ」というため息が聞こえてくる。
「へぇ」という感嘆詞が聞こえてくる。
本日、明慧大学付属明慧学園高等学校の入学式。
壱太はかなり大き目の(後15センチは身長が伸びると見込んで)紺色のガクランに身を包んで、ものめずらしげにきょろきょろと周りを見渡していた。
「ねっねっ、本当に桜咲いてるよー!!」
「すごいすごい!桜吹雪!」
風がふわーと吹くと桜がひらり舞い落ちる。
壱太のふるさとでは、桜は4月末に咲く。この時期はようやく冬の厳しさから抜け出したばかりだ。
暖かい春の日差しの中、左手に中等部、右手に高等部の間の桜並木を行くと高等部の門がみえる。
門から校舎の受付まで、左右に在校生が並び新入生を拍手で迎える恒例の入学セレモニーがここから始まるのだ。
そして、先ほどの感嘆符。
「ほぉ」というため息交じりの視線をいっせいに浴びているのは・・・壱太の連れだった。
最初、みんなは「男装の麗人の母上」かとおもった。
けれど、通り過ぎる真横でまじまじと見ると、そこにいるのが若くて美しいが紛れもなく自分たちと同じ男性であることに気づく。
いつも、ジーンズやカーゴパンツにトレーナーといったいで立ちで仕事に出かける千尋が今日は細い縞が入った黒のシングルスーツを着ている。
「ちーちゃん、かっこいい!」
「すげエかっこいい!」
朝、着替えを済ませた壱太が、何度も褒めている。
「面接用に若い頃に買ったんだよ、一張羅なんだ。これしかもってない」
グレーのシャツに紺色と白色のストライプのネクタイ。
170センチほどの華奢な体だが、すっと背すじを伸ばして立つと、細い足の長さが際立ちいっそう美しさを引き立たせる。
茶色の長めの前髪は斜めで分けられ右目を半分ほど多い、短めの後ろ髪から白くて細いうなじが見える。
「もう、何を言ってるの壱太は」
「壱太も制服、よく似合っているよ」
とガクランの一番上のボタンを留めてくすくす笑った。
裾上げをして、袖も直してもらったけれど、制服に着られてしまっているらしい。
「ほぉ」と千尋を見送った在校生の視線は、その隣できょろきょろと興奮気味な少年に移る。
そして 「へぇ」
ざわざわと、小さな声でささやきが前へ前へ走る。
「かなりかわいいぞ」
「今年の一年の1番かもね」
158センチの壱太には、左右の在校生がすごく大きく見え、おっかなびっくり千尋にくっついて歩いている。
「目は黒目が大きくて白い部分は透き通った青色(まるで赤ん坊のよう!)だよ」
「目じりは切れ上がって、かなり気が強いかも」
「左のえくぼがかわいらしい。」
「ピンクががった肌と真っ黒な髪のコントラストがまたいい。」
「猫毛がいい」
などなどなど・・・。
「えっと、中山壱太です。 宜しくお願いします」
千尋が受付に声をかけると、
「え、あ、はい!1年B組になります。」
真っ赤になりながら書類を渡してくれた。
そして
いきなり手を差し出される千尋。
「握手してください!」
くすくす笑いながら
「ここは相変わらずだね」
とつぶやくと壱太が
「千尋ちゃん?有名人?」
怪訝な顔をした。
今度は後ろに後ろにささやきが走る。
「中山だって」
「イチタってかわいい名前だな」
「1ーB 1−B」
「要チェック要チェック」
「あの人は千尋ちゃんだって」
「千尋さん・・・似合ってるなあ」
さわさわさわさわ、小鳥の巣。
今日壱太は350人の新入生の中で一番有名人になった。
壱太の夕焼け 3へ← →壱太の夕焼け 5へ
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
BLといえばやはり男子校!定番だよね〜明日もBLメイケイ学園の続きです。コメントありがとうございます。すごく励みになります(LOVE)
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

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「へぇ」という感嘆詞が聞こえてくる。
本日、明慧大学付属明慧学園高等学校の入学式。
壱太はかなり大き目の(後15センチは身長が伸びると見込んで)紺色のガクランに身を包んで、ものめずらしげにきょろきょろと周りを見渡していた。
「ねっねっ、本当に桜咲いてるよー!!」
「すごいすごい!桜吹雪!」
風がふわーと吹くと桜がひらり舞い落ちる。
壱太のふるさとでは、桜は4月末に咲く。この時期はようやく冬の厳しさから抜け出したばかりだ。
暖かい春の日差しの中、左手に中等部、右手に高等部の間の桜並木を行くと高等部の門がみえる。
門から校舎の受付まで、左右に在校生が並び新入生を拍手で迎える恒例の入学セレモニーがここから始まるのだ。
そして、先ほどの感嘆符。
「ほぉ」というため息交じりの視線をいっせいに浴びているのは・・・壱太の連れだった。
最初、みんなは「男装の麗人の母上」かとおもった。
けれど、通り過ぎる真横でまじまじと見ると、そこにいるのが若くて美しいが紛れもなく自分たちと同じ男性であることに気づく。
いつも、ジーンズやカーゴパンツにトレーナーといったいで立ちで仕事に出かける千尋が今日は細い縞が入った黒のシングルスーツを着ている。
「ちーちゃん、かっこいい!」
「すげエかっこいい!」
朝、着替えを済ませた壱太が、何度も褒めている。
「面接用に若い頃に買ったんだよ、一張羅なんだ。これしかもってない」
グレーのシャツに紺色と白色のストライプのネクタイ。
170センチほどの華奢な体だが、すっと背すじを伸ばして立つと、細い足の長さが際立ちいっそう美しさを引き立たせる。
茶色の長めの前髪は斜めで分けられ右目を半分ほど多い、短めの後ろ髪から白くて細いうなじが見える。
「もう、何を言ってるの壱太は」
「壱太も制服、よく似合っているよ」
とガクランの一番上のボタンを留めてくすくす笑った。
裾上げをして、袖も直してもらったけれど、制服に着られてしまっているらしい。
「ほぉ」と千尋を見送った在校生の視線は、その隣できょろきょろと興奮気味な少年に移る。
そして 「へぇ」
ざわざわと、小さな声でささやきが前へ前へ走る。
「かなりかわいいぞ」
「今年の一年の1番かもね」
158センチの壱太には、左右の在校生がすごく大きく見え、おっかなびっくり千尋にくっついて歩いている。
「目は黒目が大きくて白い部分は透き通った青色(まるで赤ん坊のよう!)だよ」
「目じりは切れ上がって、かなり気が強いかも」
「左のえくぼがかわいらしい。」
「ピンクががった肌と真っ黒な髪のコントラストがまたいい。」
「猫毛がいい」
などなどなど・・・。
「えっと、中山壱太です。 宜しくお願いします」
千尋が受付に声をかけると、
「え、あ、はい!1年B組になります。」
真っ赤になりながら書類を渡してくれた。
そして
いきなり手を差し出される千尋。
「握手してください!」
くすくす笑いながら
「ここは相変わらずだね」
とつぶやくと壱太が
「千尋ちゃん?有名人?」
怪訝な顔をした。
今度は後ろに後ろにささやきが走る。
「中山だって」
「イチタってかわいい名前だな」
「1ーB 1−B」
「要チェック要チェック」
「あの人は千尋ちゃんだって」
「千尋さん・・・似合ってるなあ」
さわさわさわさわ、小鳥の巣。
今日壱太は350人の新入生の中で一番有名人になった。
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「天宮!天宮千尋!」
式場に向かう途中、突然遠くからだみ声がかかった。
走ってくるのは、スーツを着たくまさん・・・もとい明慧学園の教師らしい。
「あー、うっちー!・・・お久しぶりです、内田先生」
「元気にしていたか?その後どうしていたんだ?この間の同窓会でもおまえ行方不明者だったぞ」
「はは、行方不明って大げさな・・・。その節は色々お世話になりました。今は、この街にまた戻ってきたんですよ。甥っ子の中山壱太です」
「甥っ子?・・・美奈ちゃんの子供か?」
突然母親の名前が出て、壱太はどきりとした。
「・・・ちーちゃん??」
「ああ、ごめんごめん、僕のね、高3の時の担任、古文の内田センセイだよ」
「あ!中山壱太です!宜しくお願いします!」
「美奈ちゃんの子か・・・・壱太君、センセイね、大学のときお母さんの同級生だったんだよ、昔君と一度会ったことがあるよ、ずいぶん大きくなったね。・・・この高校に入ってくれて嬉しいよ」
顎鬚を撫でながらにかっと笑うと、右手を差し出し ようこそ と壱太の手を握りぶんぶんと振り回した。
壱太の知らない母を知っているという内田先生。ふるさとから遠く離れた地で母の事を知っている人がいるのはホットミルクを飲んでいるような気分。体の中までふわっとあったかくなる。
在校生たちが遠巻きで3人のやり取りを見ている。
「卒業生だってさ」
「天宮さんだって・・何年度生だろう」
「うっちーの教え子かあ」
「いいなあ、いいよなあ、うっちー・・呼び捨てだぜ」
羨望や好奇のまなざしを浴びる中で、刺すような視線があるのを千尋は感じた。
(なんだろう?)
振り返ってみると、体育館に向かう人々の波。
「・・・まさかね」
千尋の胸はどきんと波打つ。
まさかね。ここに来たから雰囲気の呑まれているんだ。
どきんどきん。
壱太もかなり興奮して、きょろきょろあっちを見たりこっちを見たり。
目が合うと誰かれかまわず、にっこり。嬉しくて笑顔の大サービス中。
そんな行為が、またささやきとなって、在校生たちに広まる。
「すごい人だね・・・俺こんなに同級生がいるとは思わなかった」
「俺、友達出来るかな・・・」
壱太には今まで同級生の友達がいなかった。
山村の小さな小さな学校。
小学生は全学年で24名。中学生は壱太ひとり。壱太の卒業を待って、中学校は長い歴史を閉じ、19キロ離れた中心部の学校に統合された。
たった一人の入学式、たった一人の卒業式。
手のひらに汗。頬はぽおっと仄かに赤らんで、小さな壱太が上目遣いで見上げれば、零れ落ちそうなくりくりの瞳がきらきらしている。
「ちーちゃん、ありがと」
明慧大付属明慧学園高校1年B組18番 中山壱太。
壱太の高校生活は充実しそうな予感。
壱太の夕焼け 4へ← →壱太の夕焼け 6へ
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いかんいかん、児童文学から抜け出せない・・・ようやく壱太の(BL?)高校生活が始まります〜♪コメントありがとうございます。すごく励みになります(LOVE)
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式場に向かう途中、突然遠くからだみ声がかかった。
走ってくるのは、スーツを着たくまさん・・・もとい明慧学園の教師らしい。
「あー、うっちー!・・・お久しぶりです、内田先生」
「元気にしていたか?その後どうしていたんだ?この間の同窓会でもおまえ行方不明者だったぞ」
「はは、行方不明って大げさな・・・。その節は色々お世話になりました。今は、この街にまた戻ってきたんですよ。甥っ子の中山壱太です」
「甥っ子?・・・美奈ちゃんの子供か?」
突然母親の名前が出て、壱太はどきりとした。
「・・・ちーちゃん??」
「ああ、ごめんごめん、僕のね、高3の時の担任、古文の内田センセイだよ」
「あ!中山壱太です!宜しくお願いします!」
「美奈ちゃんの子か・・・・壱太君、センセイね、大学のときお母さんの同級生だったんだよ、昔君と一度会ったことがあるよ、ずいぶん大きくなったね。・・・この高校に入ってくれて嬉しいよ」
顎鬚を撫でながらにかっと笑うと、右手を差し出し ようこそ と壱太の手を握りぶんぶんと振り回した。
壱太の知らない母を知っているという内田先生。ふるさとから遠く離れた地で母の事を知っている人がいるのはホットミルクを飲んでいるような気分。体の中までふわっとあったかくなる。
在校生たちが遠巻きで3人のやり取りを見ている。
「卒業生だってさ」
「天宮さんだって・・何年度生だろう」
「うっちーの教え子かあ」
「いいなあ、いいよなあ、うっちー・・呼び捨てだぜ」
羨望や好奇のまなざしを浴びる中で、刺すような視線があるのを千尋は感じた。
(なんだろう?)
振り返ってみると、体育館に向かう人々の波。
「・・・まさかね」
千尋の胸はどきんと波打つ。
まさかね。ここに来たから雰囲気の呑まれているんだ。
どきんどきん。
壱太もかなり興奮して、きょろきょろあっちを見たりこっちを見たり。
目が合うと誰かれかまわず、にっこり。嬉しくて笑顔の大サービス中。
そんな行為が、またささやきとなって、在校生たちに広まる。
「すごい人だね・・・俺こんなに同級生がいるとは思わなかった」
「俺、友達出来るかな・・・」
壱太には今まで同級生の友達がいなかった。
山村の小さな小さな学校。
小学生は全学年で24名。中学生は壱太ひとり。壱太の卒業を待って、中学校は長い歴史を閉じ、19キロ離れた中心部の学校に統合された。
たった一人の入学式、たった一人の卒業式。
手のひらに汗。頬はぽおっと仄かに赤らんで、小さな壱太が上目遣いで見上げれば、零れ落ちそうなくりくりの瞳がきらきらしている。
「ちーちゃん、ありがと」
明慧大付属明慧学園高校1年B組18番 中山壱太。
壱太の高校生活は充実しそうな予感。
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1年B組。
宏輔(こうすけ)は同じクラスになった面々を眼鏡越しにこっそり覗いた。
新学期が始まって数日。内部進学組み4割、外部組み6割。
少数派の内部組みが、隣に座った相手を探りつつ明慧のしきたりや風習を外部組みに伝授し、少しずつ気のあった仲間を増やしていくのが常だ。
けれども宏輔の席の周りは、いつもしんとしている。
休み時間はいつも本を読んでいるし、たまに誰かが声をかけても「あ・・・」といったまま返事が無いのでスーッと去っていってしまうのだ。
別に無視をしているわけではなく、返事を探しているうちに時間がたつ。
でも、宏輔としては、そのほうが楽だと思っている。授業中と読書は黒ぶちめがね、登下校は眼鏡を外して下を向いて歩く。誰かの顔が判別できるのもイヤ、ましてや知らない人に話しかけられると異常に緊張してしまうし、見られていると思うだけで恥ずかしくって目を伏せてしまう。背中を丸めて歩くと小さな体が更に小さく見える。
だから友達がいないのは全然平気だった。幸い席も窓際の最後部。本を読むか窓の外を眺めていても誰も不思議に思わない。
そんな宏輔が珍しく興味を持ったのが、いつでも誰かがそばで話しかけている壱太だった。
いつもニコニコとして、すぐ誰とでも友達になるのに、特定の友達はまだいないらしい。部活は入ってなくて、放課後は図書室でよく一緒になる。といっても向こうは気が付いているかは分からないけれども。
本の間から伺っていたら、視線に感づいたのか、壱太がふっと宏輔を見て近寄ってきた。
「こんちは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ちは」
「今日も図書室行く?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・うん」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
誰かに誘われることなんて未だかってなく。
(あ?う?・・・どうして??)
かぁっと真っ赤になってしまう宏輔。しゃべりは遅いが心の中は饒舌。
放課後の図書室で、向かい合わせた席で、宿題をしたり本を読んだり。
(僕といて何が楽しんだろう?)
ニコニコしながら、時折話しかけてくるが、宏輔の返事を促すわけでもなく頬杖を突いて何気に待っていてくれる。
「えっと・・・中山くん・・・僕そろそろ帰るね」
「壱太でいいよ、一緒に帰ろ。宏輔」
(わっ・・・いきなり呼びすてなのか!なんで僕に付いてくるんだ?)
「俺んち、3丁目の善書店の方なんだけど、宏輔は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっち方面」
並んで歩くと、まるで中学生が二人。160センチに満たない小さな影が二つ。
「明慧って不思議だね、俺びっくりすることばっか」
「へ・・・?」
「俺、男なのに、かわいいかわいいって・・・・かっこいいって言って欲しいよ・・・」
「ぷっ・・・・・・・・・・・・・・・・・だって、壱太かわいいじゃん」
「宏輔まで・・・」
ふっと壱太は、宏輔の顔にぐぐっと近づく。
「やっぱそうだ。宏輔、いつも眼鏡か、目を細めて歩いているでしょ?」
5センチまで顔を寄せ、隠すように覆われている前髪をかきあげて
「宏輔のほうがめっちゃかわいいじゃん!」
「あ・・・・???」
(こいつ何言ってんの!!!そんなに近寄るな馬鹿!)
「まつげばさばさだし、目なんて茶色くて落っこちそうだし。髪はさらさら出し!俺よりずっと色白だし!ちーちゃんみたい!」
(な、な、な・・・・・何言ってんの!!)
「壱太・・・ちょっと離れて!」
宏輔は壱太をぐっと押しのけると、耳まで真っ赤になりながら下を向いてダッシュで走り出した。
「まってよ!」
壱太は、宏輔の腕をつかんで
「ごめん、おこんないで。宏輔もかわいいって言われるのいや?・・・・んじゃあ、誰にも言わないから、宏輔がめっちゃかわいいの・・・・・一緒に帰ろ」
ぺこりと頭を下げた。
色が白くて茶色い髪がさらさらで、二重のくっきりな瞳もやっぱり茶色くて。
でも宏輔は知らない。だって、眼鏡を外した自分の顔なんて良く見えないし、背が小さいのも色が白いのもコンプレックス。
宏輔は壱太の話をうんうんって聞いてくれる。
宏輔が美人さんなのは壱太だけの秘密。
壱太に一番の友達が出来た日。
壱太の夕焼け 5へ← →壱太の夕焼け 7へ
明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なんだか壱太の児童文学?が続いておりますが、見捨てナイデネ。
宏輔くん、以前にもどっかで出てきてます♪
(LOVE)
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
宏輔(こうすけ)は同じクラスになった面々を眼鏡越しにこっそり覗いた。
新学期が始まって数日。内部進学組み4割、外部組み6割。
少数派の内部組みが、隣に座った相手を探りつつ明慧のしきたりや風習を外部組みに伝授し、少しずつ気のあった仲間を増やしていくのが常だ。
けれども宏輔の席の周りは、いつもしんとしている。
休み時間はいつも本を読んでいるし、たまに誰かが声をかけても「あ・・・」といったまま返事が無いのでスーッと去っていってしまうのだ。
別に無視をしているわけではなく、返事を探しているうちに時間がたつ。
でも、宏輔としては、そのほうが楽だと思っている。授業中と読書は黒ぶちめがね、登下校は眼鏡を外して下を向いて歩く。誰かの顔が判別できるのもイヤ、ましてや知らない人に話しかけられると異常に緊張してしまうし、見られていると思うだけで恥ずかしくって目を伏せてしまう。背中を丸めて歩くと小さな体が更に小さく見える。
だから友達がいないのは全然平気だった。幸い席も窓際の最後部。本を読むか窓の外を眺めていても誰も不思議に思わない。
そんな宏輔が珍しく興味を持ったのが、いつでも誰かがそばで話しかけている壱太だった。
いつもニコニコとして、すぐ誰とでも友達になるのに、特定の友達はまだいないらしい。部活は入ってなくて、放課後は図書室でよく一緒になる。といっても向こうは気が付いているかは分からないけれども。
本の間から伺っていたら、視線に感づいたのか、壱太がふっと宏輔を見て近寄ってきた。
「こんちは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ちは」
「今日も図書室行く?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・うん」
「じゃあ、一緒に行こうよ」
誰かに誘われることなんて未だかってなく。
(あ?う?・・・どうして??)
かぁっと真っ赤になってしまう宏輔。しゃべりは遅いが心の中は饒舌。
放課後の図書室で、向かい合わせた席で、宿題をしたり本を読んだり。
(僕といて何が楽しんだろう?)
ニコニコしながら、時折話しかけてくるが、宏輔の返事を促すわけでもなく頬杖を突いて何気に待っていてくれる。
「えっと・・・中山くん・・・僕そろそろ帰るね」
「壱太でいいよ、一緒に帰ろ。宏輔」
(わっ・・・いきなり呼びすてなのか!なんで僕に付いてくるんだ?)
「俺んち、3丁目の善書店の方なんだけど、宏輔は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そっち方面」
並んで歩くと、まるで中学生が二人。160センチに満たない小さな影が二つ。
「明慧って不思議だね、俺びっくりすることばっか」
「へ・・・?」
「俺、男なのに、かわいいかわいいって・・・・かっこいいって言って欲しいよ・・・」
「ぷっ・・・・・・・・・・・・・・・・・だって、壱太かわいいじゃん」
「宏輔まで・・・」
ふっと壱太は、宏輔の顔にぐぐっと近づく。
「やっぱそうだ。宏輔、いつも眼鏡か、目を細めて歩いているでしょ?」
5センチまで顔を寄せ、隠すように覆われている前髪をかきあげて
「宏輔のほうがめっちゃかわいいじゃん!」
「あ・・・・???」
(こいつ何言ってんの!!!そんなに近寄るな馬鹿!)
「まつげばさばさだし、目なんて茶色くて落っこちそうだし。髪はさらさら出し!俺よりずっと色白だし!ちーちゃんみたい!」
(な、な、な・・・・・何言ってんの!!)
「壱太・・・ちょっと離れて!」
宏輔は壱太をぐっと押しのけると、耳まで真っ赤になりながら下を向いてダッシュで走り出した。
「まってよ!」
壱太は、宏輔の腕をつかんで
「ごめん、おこんないで。宏輔もかわいいって言われるのいや?・・・・んじゃあ、誰にも言わないから、宏輔がめっちゃかわいいの・・・・・一緒に帰ろ」
ぺこりと頭を下げた。
色が白くて茶色い髪がさらさらで、二重のくっきりな瞳もやっぱり茶色くて。
でも宏輔は知らない。だって、眼鏡を外した自分の顔なんて良く見えないし、背が小さいのも色が白いのもコンプレックス。
宏輔は壱太の話をうんうんって聞いてくれる。
宏輔が美人さんなのは壱太だけの秘密。
壱太に一番の友達が出来た日。
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若干性描写を含みます。R18というほどでもありませんが・・・
2月の雪の降る夜。
小さな電気ストーブ一台で暖を取る千尋の部屋は、なかなか隅々までぬくもりが伝わらず、指先が凍えてぶるぶる震えが止まらない。
会社にいたほうが良かったかな・・と思いながらミルクたっぷりのホットコーヒーを飲む。酒は付き合い程度なので、家には置いていない。
毛布で体をくるんで、ぼんやりとTVドラマを見る。
こんな日はダメだ。雪の向こうにあの日の出来事が思い出され、どうしようもなく慟哭してしまいそうになる。
高校卒業を間近に控えた8年前のあの日、父が倒れた。
父の会社の片腕・・共同経営者が会社の資金を持ち逃げし、手形が落ちなかったのだという。
あっという間に傾いた小さな輸入雑貨店。父や営業マンがドイツやスイスの個人の製作者を訪ねて良質な木製玩具やアンティーク家具を買い付け、国内に静かなだけれど熱い固定ファンがいた。
すぐに家を抵当にいれ、資産を全て会社に回し、なんとか倒産は免れたが、持ち直すまでにはいたらず会社を大手の家具店に売り渡した。
父の切り開いた輸入元や販路が魅力的だったらしい。千尋には良く分からなかったが、社員をそのまま引き取ってくれること、家族が何とか暮らしていけるだけの財産、それだけを条件に父は全ての書類に判を押したということだった。
そしてその夜、父は倒れた。
緊急手術、意識の戻らない父を前に母を支えて、どう動いたのか記憶に無い。
窓の外には、今日と同じ雪。
2週間後には転院を余儀なくされ、遠く離れたT県のリハビリ専用の病院に移った。家はすでに引き渡しが決まっていたので、逃げるように病院のそばに小さなアパートを借り、母と二人移り住んだ。
推薦で決まっていた大学の辞退をし、卒業式を前に誰にも言わず姿を消したのが2月末。
卒業証書は受け取ることは出来ず。
3年生ははすでに自由登校であったし、2年生は2月の1ケ月間を使った海外への修学旅行という名のホームスティプログラムに出かけていた。
だから・・・さよならは言わなかった。
子供から大人になったあの日。怒涛の1ヶ月だったといえる。
千尋は全ての思い出に別れを告げて、母と一緒に父を支え、小さなデザイン事務所にバイトにはいり、2ヵ月後には社員にして貰った。マックが使えること、絵が好きなこと、それだけで雇ってくれた社長には今でも感謝している。
無我夢中で、働いた5年間。
3年目に再び倒れた父は、そのまま意識が戻ることなく闘病生活を終えた。それから2年、後を追うように母も病に冒されわずか半年でこの世を去った。
そして千尋は一人ぼっちでひざを抱えて涙を流す。
決して会うことの出来ない彼の人の名前をつぶやきながら。
「迅(じん)・・・・・・・・・・・・」
思って泣くのは許されるか。
指先。
いつも熱くて千尋に熱を伝染させた。
唇。
そっとそっとついばむように、体中に降り注いだ。
髪。
くしゃくしゃに乱れた茶色い前髪が千尋の頬をくすぐった。
舌。
千尋のそれを追いかけ絡んで、口内を蹂躙し千尋の呼吸を奪った。
足。
千尋の腰を押さえつけ、抵抗を奪いながら自分の昂ぶりを押し付けてきた。
誰もいない美術部の部室。
千尋は、汚れたエプロンをつけて。油絵の具の匂いがしていた。
「先輩・・・千尋先輩・・・・先輩・・・」
何度も何度も耳元で囁くかすれた声。
穿たれる熱に逃げる千尋の肩は何度も引き戻された。
熱くて熱くて熱くて怖くて・・・・・・交わった先からどこまでが自分か分からなくなって泣いた。
窓から、夕日の赤い色が差し込んでいる。
イーゼルが倒れて、描きかけの絵が上を向いてひっくり返った。
下塗りの人物画は、まだ緑色の肌をしてこちらを見ていた。
雪の降る夜。
毛布に包まり、そっと自分で肩を抱いて、ぎゅっと唇をかみ締め、闇の去るのを待つ。
声を立てずに泣きながら。
音もなく降る雪。深く深く、どうしようもなく底に沈んでしまいそうな、一人ぼっちの夜。
これは、壱太と暮らすちょっと前の千尋のお話。
一人ぼっちのさびしい夜。
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明仁 X 壱太 短編はこちら↓
ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ちょっとだけエッチが書きたくなったので(笑)千尋の過去を暴露してみました、ほほほ
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

こちらもぽちっと・・・ぜひよろしくです^^
2月の雪の降る夜。
小さな電気ストーブ一台で暖を取る千尋の部屋は、なかなか隅々までぬくもりが伝わらず、指先が凍えてぶるぶる震えが止まらない。
会社にいたほうが良かったかな・・と思いながらミルクたっぷりのホットコーヒーを飲む。酒は付き合い程度なので、家には置いていない。
毛布で体をくるんで、ぼんやりとTVドラマを見る。
こんな日はダメだ。雪の向こうにあの日の出来事が思い出され、どうしようもなく慟哭してしまいそうになる。
高校卒業を間近に控えた8年前のあの日、父が倒れた。
父の会社の片腕・・共同経営者が会社の資金を持ち逃げし、手形が落ちなかったのだという。
あっという間に傾いた小さな輸入雑貨店。父や営業マンがドイツやスイスの個人の製作者を訪ねて良質な木製玩具やアンティーク家具を買い付け、国内に静かなだけれど熱い固定ファンがいた。
すぐに家を抵当にいれ、資産を全て会社に回し、なんとか倒産は免れたが、持ち直すまでにはいたらず会社を大手の家具店に売り渡した。
父の切り開いた輸入元や販路が魅力的だったらしい。千尋には良く分からなかったが、社員をそのまま引き取ってくれること、家族が何とか暮らしていけるだけの財産、それだけを条件に父は全ての書類に判を押したということだった。
そしてその夜、父は倒れた。
緊急手術、意識の戻らない父を前に母を支えて、どう動いたのか記憶に無い。
窓の外には、今日と同じ雪。
2週間後には転院を余儀なくされ、遠く離れたT県のリハビリ専用の病院に移った。家はすでに引き渡しが決まっていたので、逃げるように病院のそばに小さなアパートを借り、母と二人移り住んだ。
推薦で決まっていた大学の辞退をし、卒業式を前に誰にも言わず姿を消したのが2月末。
卒業証書は受け取ることは出来ず。
3年生ははすでに自由登校であったし、2年生は2月の1ケ月間を使った海外への修学旅行という名のホームスティプログラムに出かけていた。
だから・・・さよならは言わなかった。
子供から大人になったあの日。怒涛の1ヶ月だったといえる。
千尋は全ての思い出に別れを告げて、母と一緒に父を支え、小さなデザイン事務所にバイトにはいり、2ヵ月後には社員にして貰った。マックが使えること、絵が好きなこと、それだけで雇ってくれた社長には今でも感謝している。
無我夢中で、働いた5年間。
3年目に再び倒れた父は、そのまま意識が戻ることなく闘病生活を終えた。それから2年、後を追うように母も病に冒されわずか半年でこの世を去った。
そして千尋は一人ぼっちでひざを抱えて涙を流す。
決して会うことの出来ない彼の人の名前をつぶやきながら。
「迅(じん)・・・・・・・・・・・・」
思って泣くのは許されるか。
指先。
いつも熱くて千尋に熱を伝染させた。
唇。
そっとそっとついばむように、体中に降り注いだ。
髪。
くしゃくしゃに乱れた茶色い前髪が千尋の頬をくすぐった。
舌。
千尋のそれを追いかけ絡んで、口内を蹂躙し千尋の呼吸を奪った。
足。
千尋の腰を押さえつけ、抵抗を奪いながら自分の昂ぶりを押し付けてきた。
誰もいない美術部の部室。
千尋は、汚れたエプロンをつけて。油絵の具の匂いがしていた。
「先輩・・・千尋先輩・・・・先輩・・・」
何度も何度も耳元で囁くかすれた声。
穿たれる熱に逃げる千尋の肩は何度も引き戻された。
熱くて熱くて熱くて怖くて・・・・・・交わった先からどこまでが自分か分からなくなって泣いた。
窓から、夕日の赤い色が差し込んでいる。
イーゼルが倒れて、描きかけの絵が上を向いてひっくり返った。
下塗りの人物画は、まだ緑色の肌をしてこちらを見ていた。
雪の降る夜。
毛布に包まり、そっと自分で肩を抱いて、ぎゅっと唇をかみ締め、闇の去るのを待つ。
声を立てずに泣きながら。
音もなく降る雪。深く深く、どうしようもなく底に沈んでしまいそうな、一人ぼっちの夜。
これは、壱太と暮らすちょっと前の千尋のお話。
一人ぼっちのさびしい夜。
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ばんれんたいんでぃ きっす
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ちょっとだけエッチが書きたくなったので(笑)千尋の過去を暴露してみました、ほほほ
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4月も終わりの頃には、壱太は1年B組の中心人物になっていた。
授業態度はいたってまじめであったが、体育では時々ぼろが出る。集団競技が出来ないのだ。やったことが無いのだから仕方が無い。
サッカーでオウンゴール、バスケのパスを顔で受けて脳震盪。
その反面、「走る」「跳ぶ」などはずば抜けて優れていた。100メール走10秒58・・・。
片道4キロの道のりを、毎日歩いて中学校に通った成果が出ている。
何人かの上級生が交際を申し込んできたが、
「先輩、俺のことどうして好きなんですか?付き合ってどうしたいんですか?申し訳ありませんが、俺先輩のこと知らないし、付き合う気はありません」
と、ばっさり切り落とされた。
柔道部かと思われるような野郎に校内で不意にキスされそうになった時など、大事なところを膝蹴りにして、更に脛を思いっきり蹴り上げて
「ふん!2度と近寄るな!」
と啖呵をきった話は尾ひれも付いてうわさになって更に壱太人気に拍車をかけていた。
確かにかわいいところもあるが、それ以上に物怖じせずストレートに物事を言うところも好感がもたれているのである。
当初、自分の周りに透明な壁を張り巡らせていた宏輔だが、壱太の周りはいつも人が耐えないので、自然と友人が増えた。
宏輔はくすくす笑いながら、みなが聞きたがっていることをさらりと聞く。
「それで壱太は好きな人がいるの?」
「いるよ、もちろん」
「・・・・だれ?」
周りの人間も動きを止め、固唾を呑んで続きを促す。
「ちーちゃん、今一緒に暮らしてんの。ちーちゃんさ、大学を卒業するまで一緒にいようって言ってくれたんだぜ。俺の顔見るたびに、シアワセって呟くんだ!俺ね、卒業したら、一杯働いて俺がちーちゃん一杯シアワセにしてあげたの、ワカル?」
息を詰めていた者たちから、いっせいにふーっと嘆息がもれ、壱太めがけて揶揄かいの言葉が飛ぶ。
「ちーちゃんって・・・千尋さんでしょ・・壱太の叔父さんじゃん・・・」
「壱太が大学卒業する頃は、千尋さん32歳?それまで待たせるの?かわいそー。」
「まず、それまで叔父さんまてねーって。その前に彼女作って結婚しちゃうって」
それでも、と壱太は思う。
千尋が壱太を必要としていてくれるのであれば、ずっとずっと一緒にいて千尋をもっとシアワセにしてあげたい。
学校帰りはたいがい宏輔と一緒であったが、時折ひとりであの場所に向かう。
最初は迷わないように、ヘンゼルとグレーテルよろしく分かれ道には目印に枝に赤いリボンを結んだ。
はあはあと息を弾ませて上ると、目前に広がる大パノラマ。風がヒューと吹いて、額の汗を乾かしてくれる。
ベンチに腰掛、テーブルに宿題を広げもくもくとこなすこともあれば、木陰で本を広げたまま寝入ってしまうこともある。
貸しきり状態のこの場所に、時折バイクでやってくる人がいる。
二言三言会話を交わすが、それぞれに孤独を楽しみにここにやってくるというのが十分にわかっているので、お互いのテリトリーを犯さないように明仁は壱太のそばには座らない。
明仁もまた、のんびり本を読んだり昼寝をしたりして日向ケ丘の夕日を楽しみにしているのだ。
そうしてうす闇が広がる前に、明仁は自然と壱太を促して後部のせ自宅まで送っていく。
いつの間にか、明仁のバイクには小さな半ヘルが積まれ、明仁は公園のふもとで壱太を見つけると一緒にバイクで上まで行くのが常となった。
木陰で本を読んでいる明仁の隣で、やはり本を読んでいた壱太の手がパタンと落ちてスースーと寝息を立て始めた。
「やれやれ、風邪を引くよ」
明仁は、上着を脱いで壱太にかけると、壱太の体がぐらりと明仁の胸に倒れこみ横倒しになった。明仁は膝の上に壱太の頭を乗せやさしく髪をすいて、くすりと笑った。
「これで一人前に高校生だって・・ったく」
涙をぼーぼー流していた少年。
笑うと左にえくぼが出る少年。
怒るととどんな顔をするんだろう。
明仁は、この山の上での壱太との逢瀬が心地よいものになってきた4月の終わり。
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント、拍手ありがとうございます!!
ようやく本編に入ってきましたが・・・相変わらずエロなし・・・つまらんのう^^;
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

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授業態度はいたってまじめであったが、体育では時々ぼろが出る。集団競技が出来ないのだ。やったことが無いのだから仕方が無い。
サッカーでオウンゴール、バスケのパスを顔で受けて脳震盪。
その反面、「走る」「跳ぶ」などはずば抜けて優れていた。100メール走10秒58・・・。
片道4キロの道のりを、毎日歩いて中学校に通った成果が出ている。
何人かの上級生が交際を申し込んできたが、
「先輩、俺のことどうして好きなんですか?付き合ってどうしたいんですか?申し訳ありませんが、俺先輩のこと知らないし、付き合う気はありません」
と、ばっさり切り落とされた。
柔道部かと思われるような野郎に校内で不意にキスされそうになった時など、大事なところを膝蹴りにして、更に脛を思いっきり蹴り上げて
「ふん!2度と近寄るな!」
と啖呵をきった話は尾ひれも付いてうわさになって更に壱太人気に拍車をかけていた。
確かにかわいいところもあるが、それ以上に物怖じせずストレートに物事を言うところも好感がもたれているのである。
当初、自分の周りに透明な壁を張り巡らせていた宏輔だが、壱太の周りはいつも人が耐えないので、自然と友人が増えた。
宏輔はくすくす笑いながら、みなが聞きたがっていることをさらりと聞く。
「それで壱太は好きな人がいるの?」
「いるよ、もちろん」
「・・・・だれ?」
周りの人間も動きを止め、固唾を呑んで続きを促す。
「ちーちゃん、今一緒に暮らしてんの。ちーちゃんさ、大学を卒業するまで一緒にいようって言ってくれたんだぜ。俺の顔見るたびに、シアワセって呟くんだ!俺ね、卒業したら、一杯働いて俺がちーちゃん一杯シアワセにしてあげたの、ワカル?」
息を詰めていた者たちから、いっせいにふーっと嘆息がもれ、壱太めがけて揶揄かいの言葉が飛ぶ。
「ちーちゃんって・・・千尋さんでしょ・・壱太の叔父さんじゃん・・・」
「壱太が大学卒業する頃は、千尋さん32歳?それまで待たせるの?かわいそー。」
「まず、それまで叔父さんまてねーって。その前に彼女作って結婚しちゃうって」
それでも、と壱太は思う。
千尋が壱太を必要としていてくれるのであれば、ずっとずっと一緒にいて千尋をもっとシアワセにしてあげたい。
学校帰りはたいがい宏輔と一緒であったが、時折ひとりであの場所に向かう。
最初は迷わないように、ヘンゼルとグレーテルよろしく分かれ道には目印に枝に赤いリボンを結んだ。
はあはあと息を弾ませて上ると、目前に広がる大パノラマ。風がヒューと吹いて、額の汗を乾かしてくれる。
ベンチに腰掛、テーブルに宿題を広げもくもくとこなすこともあれば、木陰で本を広げたまま寝入ってしまうこともある。
貸しきり状態のこの場所に、時折バイクでやってくる人がいる。
二言三言会話を交わすが、それぞれに孤独を楽しみにここにやってくるというのが十分にわかっているので、お互いのテリトリーを犯さないように明仁は壱太のそばには座らない。
明仁もまた、のんびり本を読んだり昼寝をしたりして日向ケ丘の夕日を楽しみにしているのだ。
そうしてうす闇が広がる前に、明仁は自然と壱太を促して後部のせ自宅まで送っていく。
いつの間にか、明仁のバイクには小さな半ヘルが積まれ、明仁は公園のふもとで壱太を見つけると一緒にバイクで上まで行くのが常となった。
木陰で本を読んでいる明仁の隣で、やはり本を読んでいた壱太の手がパタンと落ちてスースーと寝息を立て始めた。
「やれやれ、風邪を引くよ」
明仁は、上着を脱いで壱太にかけると、壱太の体がぐらりと明仁の胸に倒れこみ横倒しになった。明仁は膝の上に壱太の頭を乗せやさしく髪をすいて、くすりと笑った。
「これで一人前に高校生だって・・ったく」
涙をぼーぼー流していた少年。
笑うと左にえくぼが出る少年。
怒るととどんな顔をするんだろう。
明仁は、この山の上での壱太との逢瀬が心地よいものになってきた4月の終わり。
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先日の学校での友人たちとの会話は、壱太の心の中にちょっとした水溜りをつくった。無視しようか、飛び越えようか、ばしゃばしゃと中に入ってみようか・・。そしてその気持ちをそのまま放置しておくのを壱太は良しとしない。
5月のある夜、帰宅した千尋に壱太は取って置きのチャイをつくってテーブルの前に腰掛けると えっとね と話しかけた。
「えっとね、ちーちゃん、ちーちゃんは25歳だよね?母さんは、もうその歳には結婚して俺が生まれていたんだけれど。ちーちゃんはそんな予定は無いの?」
「なに?藪から棒だね。んーー、残念ながらそんな予定は無いよ」
「でもさ、恋人もいないの?」
「失礼だねええ。壱太は・・・・・・・・・・・んーー、今はいないよ」
「気になる人は?」
「いないよ。」
「なんで?ちーちゃん、もしかして俺のために恋人とか作らないの?」
「違うよ」
「じゃあなんで?俺のためじゃないなら、なんで?」
「・・・・・・・・・・・・・昔ね」
「昔、すごく好きな人がいたんだ。もうね、顔を見るだけで嬉しくて、声を聞けばもっと嬉しくて・・・こうね、胸の奥がどきどきして手が震えてくるんだよ、不思議でしょう?その人も俺のこと好きって言ってくれて・・嬉しくて嬉しくて・・・毎日、舞い上がっていたよ」
昔々・・・千尋がまだ壱太くらいの頃。
千尋もやはり明慧学園に籍を置く高校生だった。雑誌から抜け出してきたかのような「美しい」という形容詞がぴったりな少年。
色白で小さめの顔には絶妙のバランスで目鼻立ちが配置され、淡い色をした唇はいつも口角が上がり、やさしい微笑をたたえている。そして相手の瞳を見返す瞳は、栗色の髪色と同様、薄い色素で二重瞼がスーッと流れるように切れ込んで、吸い込まれるよう。
上級生からも下級生からも、まるで守られるようにやさしく溺愛され、いつも誰か彼かが周りにくっついていた。
放課後は、美術部の部室で黙々と絵を描き続ける。木炭でデッサンを取りながら頬をこすれば、黒い汚れが顔中に広がるのにも無頓着に絵を描くことに没頭している。その姿は、他を拒絶して誰も近寄ることが出来なかった。
ただひとり、迅を除いては。
いつの間にか、千尋の背後に回ってじっと見ている。邪魔をするわけでもなく話しかけるでもなく。
そうして、息を詰めながら絵を描き続ける千尋がふぅううと呼吸を紡ぐと、そっとパックのコーヒー牛乳を差し出すのだ。
「んーー、ありがと、迅。・・・部活は?」
「もう走ってきたからOK。大会もすんだしね。今日はアップ程度で流してきた」
「そう」
「まだ色塗ってくれないの?それ」
「んーー、そろそろかな」
描かれているのは、じっと正面を凝視する少年、スタートラインに立つ迅のピストルの音を聞く直前の静寂。
いつの頃からか千尋は、美術部からグランドを眺めながら、迅が走る姿を目で追っていた。
しなやかな手足が、風を切って走る姿に目が放せなかった。
その日もひとりでグランドを走っていた迅が、がくんっと崩れ落ちたのを見たのも千尋だけだった。
あわてて部室を飛び出し階段を駆け下り、うずくまる迅の元に駆け寄る。
「大丈夫かっ?」
「う・う・大丈夫・・・ちょっと足つっただけ・・・っつ・・・・先輩・・・天宮先輩・・・いつも俺見ててくれた?」
「あ・・・・うん・・・・」
「視線が・・・天宮先輩・・・俺の事好きなの?」
「あ・・・・」
いきなりの問いかけに、耳まで真っ赤になってしまう千尋。
「ごめん」
「何で誤るの?俺、あんなにずっと見つめられたこと無いよ、すごく心地よかった・・・千尋先輩」
いきなり千尋の手を握るとぐいっと体ごと引き寄せ、はっと顔を起こした千尋の唇に押し付けるようにキスをする。
首を抱え込むように手を回し、噛み付くような勢いで舌先が千尋の唇をなめ上げ、歯茎を撫であわてて離れようとした口の中にまで入り込んで、ゆっくり口内をかき回して千尋の縮み上がった舌先を捕らえ追いつめるように絡めてきた。
迅の胸に手を伸ばして抗うものの、いつしか力は抜け落ち唇が離れたときには、呼吸すら困難で頭をそのまま迅の肩に持たせかけた。
「な・なんで・・・・」
「俺、千尋先輩が好きです。だから、俺の恋人になって下さい」
千尋の初恋が実った日。そしてそれは生涯最後の恋だと今は知っている。
「何で別れたの?大好きだったんでしょう?その人どうしているの?」
「いろんなことが重なって、一緒にいられなくなったんだ・・・・ウン大好きだったよ、すごくね。もう昔のことだけど。今はどうしているのかな、俺みたいにシアワセだといいよね」
「ちーちゃんシアワセ?」
「うん、壱太がいてくれるから・・大好きだよ、壱太」
壱太はちょっと悲しくなった。千尋はきっと今でもその人が好きなのだ、ずっとずっと忘れられないのだろう。だから恋をしないのだ。それくらい高校生にだってわかる。
うん・・・ちーちゃん、俺がついててあげる。
「・・・ちーちゃん、俺とずっと一緒にいようね」
「大丈夫、ちーちゃん、俺がついててあげるから」
小さく呟くと壱太は座っている千尋の背中をぎゅっと抱きしめた。
絶対に、千尋を守る と決意をした5月の夜。
窓から差し込むまん丸の月が壱太の決心を後押しする。
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ばんれんたいんでぃ きっす
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント、拍手ありがとうございます!!
最近ちーちゃんに思い入れが強くて・・・・気が付くとちーちゃんばかり。明仁カムバーーークっ
参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。

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5月のある夜、帰宅した千尋に壱太は取って置きのチャイをつくってテーブルの前に腰掛けると えっとね と話しかけた。
「えっとね、ちーちゃん、ちーちゃんは25歳だよね?母さんは、もうその歳には結婚して俺が生まれていたんだけれど。ちーちゃんはそんな予定は無いの?」
「なに?藪から棒だね。んーー、残念ながらそんな予定は無いよ」
「でもさ、恋人もいないの?」
「失礼だねええ。壱太は・・・・・・・・・・・んーー、今はいないよ」
「気になる人は?」
「いないよ。」
「なんで?ちーちゃん、もしかして俺のために恋人とか作らないの?」
「違うよ」
「じゃあなんで?俺のためじゃないなら、なんで?」
「・・・・・・・・・・・・・昔ね」
「昔、すごく好きな人がいたんだ。もうね、顔を見るだけで嬉しくて、声を聞けばもっと嬉しくて・・・こうね、胸の奥がどきどきして手が震えてくるんだよ、不思議でしょう?その人も俺のこと好きって言ってくれて・・嬉しくて嬉しくて・・・毎日、舞い上がっていたよ」
昔々・・・千尋がまだ壱太くらいの頃。
千尋もやはり明慧学園に籍を置く高校生だった。雑誌から抜け出してきたかのような「美しい」という形容詞がぴったりな少年。
色白で小さめの顔には絶妙のバランスで目鼻立ちが配置され、淡い色をした唇はいつも口角が上がり、やさしい微笑をたたえている。そして相手の瞳を見返す瞳は、栗色の髪色と同様、薄い色素で二重瞼がスーッと流れるように切れ込んで、吸い込まれるよう。
上級生からも下級生からも、まるで守られるようにやさしく溺愛され、いつも誰か彼かが周りにくっついていた。
放課後は、美術部の部室で黙々と絵を描き続ける。木炭でデッサンを取りながら頬をこすれば、黒い汚れが顔中に広がるのにも無頓着に絵を描くことに没頭している。その姿は、他を拒絶して誰も近寄ることが出来なかった。
ただひとり、迅を除いては。
いつの間にか、千尋の背後に回ってじっと見ている。邪魔をするわけでもなく話しかけるでもなく。
そうして、息を詰めながら絵を描き続ける千尋がふぅううと呼吸を紡ぐと、そっとパックのコーヒー牛乳を差し出すのだ。
「んーー、ありがと、迅。・・・部活は?」
「もう走ってきたからOK。大会もすんだしね。今日はアップ程度で流してきた」
「そう」
「まだ色塗ってくれないの?それ」
「んーー、そろそろかな」
描かれているのは、じっと正面を凝視する少年、スタートラインに立つ迅のピストルの音を聞く直前の静寂。
いつの頃からか千尋は、美術部からグランドを眺めながら、迅が走る姿を目で追っていた。
しなやかな手足が、風を切って走る姿に目が放せなかった。
その日もひとりでグランドを走っていた迅が、がくんっと崩れ落ちたのを見たのも千尋だけだった。
あわてて部室を飛び出し階段を駆け下り、うずくまる迅の元に駆け寄る。
「大丈夫かっ?」
「う・う・大丈夫・・・ちょっと足つっただけ・・・っつ・・・・先輩・・・天宮先輩・・・いつも俺見ててくれた?」
「あ・・・・うん・・・・」
「視線が・・・天宮先輩・・・俺の事好きなの?」
「あ・・・・」
いきなりの問いかけに、耳まで真っ赤になってしまう千尋。
「ごめん」
「何で誤るの?俺、あんなにずっと見つめられたこと無いよ、すごく心地よかった・・・千尋先輩」
いきなり千尋の手を握るとぐいっと体ごと引き寄せ、はっと顔を起こした千尋の唇に押し付けるようにキスをする。
首を抱え込むように手を回し、噛み付くような勢いで舌先が千尋の唇をなめ上げ、歯茎を撫であわてて離れようとした口の中にまで入り込んで、ゆっくり口内をかき回して千尋の縮み上がった舌先を捕らえ追いつめるように絡めてきた。
迅の胸に手を伸ばして抗うものの、いつしか力は抜け落ち唇が離れたときには、呼吸すら困難で頭をそのまま迅の肩に持たせかけた。
「な・なんで・・・・」
「俺、千尋先輩が好きです。だから、俺の恋人になって下さい」
千尋の初恋が実った日。そしてそれは生涯最後の恋だと今は知っている。
「何で別れたの?大好きだったんでしょう?その人どうしているの?」
「いろんなことが重なって、一緒にいられなくなったんだ・・・・ウン大好きだったよ、すごくね。もう昔のことだけど。今はどうしているのかな、俺みたいにシアワセだといいよね」
「ちーちゃんシアワセ?」
「うん、壱太がいてくれるから・・大好きだよ、壱太」
壱太はちょっと悲しくなった。千尋はきっと今でもその人が好きなのだ、ずっとずっと忘れられないのだろう。だから恋をしないのだ。それくらい高校生にだってわかる。
うん・・・ちーちゃん、俺がついててあげる。
「・・・ちーちゃん、俺とずっと一緒にいようね」
「大丈夫、ちーちゃん、俺がついててあげるから」
小さく呟くと壱太は座っている千尋の背中をぎゅっと抱きしめた。
絶対に、千尋を守る と決意をした5月の夜。
窓から差し込むまん丸の月が壱太の決心を後押しする。
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