コーシュカ物語 10
「ヴラディ・・・コーシュカ・・イイコだ、君はとてもイイコだ」
優しく激しく先生に何度も抱きしめられ突き上げられ、オアシスを見つけた砂漠の旅人のように乾いた心がどんどん潤っていくのがわかる。
僕はその後、先生の胸の中でとてもおだやかな時間をすごした。髪をなでられ、額にキスを落とされて抱きしめられて夢も見ることなく眠った。もう自分を偽らなくてもいいのだという開放感が、男性に抱かれて眠る心地よさを欲したのだ。
先生のにおいがまるで睡眠薬のように僕を眠りにいざなう。何ヶ月ぶりかの深い深い眠り。
かたん、とクローゼットの開く音で僕は目覚めた。
「ああ、起こしちゃったかな。ごめん。緊急の呼び出しがかかってね、今から出勤してくるよ。まだ朝には早いからもう少しお休み」
「・・・あ・・いえ・・僕も・・帰ります」
「まだ動けないだろう。鍵はここにおいておくけど、ゆっくりしていきなさい、冷蔵庫の中のものは適当に食べてよいからね・・・・ヴラディ」
「・・・はい」
「ヴラディ・・・ヴラディ、何かあったら、いや、何もなくても遊びにおいで、いつでも。鍵は君にあげるよ」
夕べ飽きることなく激しく求め合った空気が漂うまったりとした部屋。時間がないのか先生は僕の唇を強引に割って舌を一瞬からませてから、頭をぎゅっと抱きしめてくれた。
「いってくるね」
ドアがばたんと閉まり、下着一枚つけず僕は新しいシーツにくるまれ一人取り残された。
「せんせい・・・」
ゆっくりと床に足を下ろし、先生がカップに飲み残しのぬるくなったコーヒーを一口啜る。
「にが・・」
大きめな寝室と広いLDKのマンション。雑然と散らかったリビング隅のパソコンデスクに無造作に積まれた手紙やDM、そして写真が数点。
笑顔の先生の隣に小麦色に焼けた青年。旅先だろうか、おそろいの浴衣。
青空の下、Tシャツとジーンズのくりくりした黒い瞳の青年がピースサイン。
「ああ、そうなんだ」
ぽたりと写真に雫がたれた。
「あ?あれ」
「なんだかなぁ、もう・・・ちょっとだけ期待しちゃったな」
きれいだ、イイコだと繰り返し言われたけれど、好きだとか愛を告げる言葉はなかった。
間違えなくってよかった。
開き直ってしまうと、昨日までの自分と違って自棄になるほどの落ち込みはない。僕は自覚する前に失恋してしまったのだ。夕べのことは、繰り返してはいけない大人の情事。
白い素肌に残るキスマークは数日のうちに消えて無くなるだろう。だけどやさしく、激しく体に刻まれた肌を重ねあった記憶だけは手放さずにいてもいいだろうか。初めてが先生でよかった。
今までだったら「愛された」と勘違いして、それを恥じて、どん底まで落ち込んでいただろうに・・・今は泰三先生の思い出があるだけで幸せな気分になれてしまう。
僕が・・思っているだけならいいよね。
昨夜、意識をなくした僕の体はきれいに清拭され、中に放たれたものも掻き出されていたが、熱いシャワーを借りて僕は部屋を出た。
まだ薄暗闇の外に、浮かぶ細い下弦の月。
薄紅に染まる朝焼けに少しずつ形がぼやける・・・昼になってもかすんで浮いているのかな。
月を見上げながらなぜか涙が溢れるのを僕は止めなかった。
「先生。泰三先生・・・ありがとう・・・ありがとう・・・大好きです」
きっと告げることのない想い。
僕はまるであの月のようだと思う。昼になっても空に溶け込んでうっすらと浮かぶ下弦の月。
夜中にぼうっと光る。
それでも間違いなく存在している。
保育師になるという夢は昼の世界。
マイノリティとして「コーシュカ」としての夜の世界。
どちらも、同じ。下弦の月の自分。
ゆっくりと家路に着く。急がなくても大丈夫。僕は僕でいればいいと、泰三先生が教えてくれた。
ワンルームの小さなアパートにもどると、キャパを超えた感情の昂ぶりと痛む体を持て余して僕は丸くなって眠った。先生からもらった鍵を握り締めて。
コーシュカ物語9へ。
コーシュカ物語11へ。
もくじへ。
ようやく一夜が明けました〜。何日かかったんだ、おい^^;
ぽちを♪どうぞよろしくです。感想などお聞かせいただけるとうれしいです〜

拍手ページのコメントが見れなくなっておりますーー;(どこかで設定を間違えたらしい・・・)拍手のお返事は、ブログで時折させて頂きます。すいません。
こちらもぽちっとな。
優しく激しく先生に何度も抱きしめられ突き上げられ、オアシスを見つけた砂漠の旅人のように乾いた心がどんどん潤っていくのがわかる。
僕はその後、先生の胸の中でとてもおだやかな時間をすごした。髪をなでられ、額にキスを落とされて抱きしめられて夢も見ることなく眠った。もう自分を偽らなくてもいいのだという開放感が、男性に抱かれて眠る心地よさを欲したのだ。
先生のにおいがまるで睡眠薬のように僕を眠りにいざなう。何ヶ月ぶりかの深い深い眠り。
かたん、とクローゼットの開く音で僕は目覚めた。
「ああ、起こしちゃったかな。ごめん。緊急の呼び出しがかかってね、今から出勤してくるよ。まだ朝には早いからもう少しお休み」
「・・・あ・・いえ・・僕も・・帰ります」
「まだ動けないだろう。鍵はここにおいておくけど、ゆっくりしていきなさい、冷蔵庫の中のものは適当に食べてよいからね・・・・ヴラディ」
「・・・はい」
「ヴラディ・・・ヴラディ、何かあったら、いや、何もなくても遊びにおいで、いつでも。鍵は君にあげるよ」
夕べ飽きることなく激しく求め合った空気が漂うまったりとした部屋。時間がないのか先生は僕の唇を強引に割って舌を一瞬からませてから、頭をぎゅっと抱きしめてくれた。
「いってくるね」
ドアがばたんと閉まり、下着一枚つけず僕は新しいシーツにくるまれ一人取り残された。
「せんせい・・・」
ゆっくりと床に足を下ろし、先生がカップに飲み残しのぬるくなったコーヒーを一口啜る。
「にが・・」
大きめな寝室と広いLDKのマンション。雑然と散らかったリビング隅のパソコンデスクに無造作に積まれた手紙やDM、そして写真が数点。
笑顔の先生の隣に小麦色に焼けた青年。旅先だろうか、おそろいの浴衣。
青空の下、Tシャツとジーンズのくりくりした黒い瞳の青年がピースサイン。
「ああ、そうなんだ」
ぽたりと写真に雫がたれた。
「あ?あれ」
「なんだかなぁ、もう・・・ちょっとだけ期待しちゃったな」
きれいだ、イイコだと繰り返し言われたけれど、好きだとか愛を告げる言葉はなかった。
間違えなくってよかった。
開き直ってしまうと、昨日までの自分と違って自棄になるほどの落ち込みはない。僕は自覚する前に失恋してしまったのだ。夕べのことは、繰り返してはいけない大人の情事。
白い素肌に残るキスマークは数日のうちに消えて無くなるだろう。だけどやさしく、激しく体に刻まれた肌を重ねあった記憶だけは手放さずにいてもいいだろうか。初めてが先生でよかった。
今までだったら「愛された」と勘違いして、それを恥じて、どん底まで落ち込んでいただろうに・・・今は泰三先生の思い出があるだけで幸せな気分になれてしまう。
僕が・・思っているだけならいいよね。
昨夜、意識をなくした僕の体はきれいに清拭され、中に放たれたものも掻き出されていたが、熱いシャワーを借りて僕は部屋を出た。
まだ薄暗闇の外に、浮かぶ細い下弦の月。
薄紅に染まる朝焼けに少しずつ形がぼやける・・・昼になってもかすんで浮いているのかな。
月を見上げながらなぜか涙が溢れるのを僕は止めなかった。
「先生。泰三先生・・・ありがとう・・・ありがとう・・・大好きです」
きっと告げることのない想い。
僕はまるであの月のようだと思う。昼になっても空に溶け込んでうっすらと浮かぶ下弦の月。
夜中にぼうっと光る。
それでも間違いなく存在している。
保育師になるという夢は昼の世界。
マイノリティとして「コーシュカ」としての夜の世界。
どちらも、同じ。下弦の月の自分。
ゆっくりと家路に着く。急がなくても大丈夫。僕は僕でいればいいと、泰三先生が教えてくれた。
ワンルームの小さなアパートにもどると、キャパを超えた感情の昂ぶりと痛む体を持て余して僕は丸くなって眠った。先生からもらった鍵を握り締めて。
コーシュカ物語9へ。
コーシュカ物語11へ。
もくじへ。
ようやく一夜が明けました〜。何日かかったんだ、おい^^;
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