過去の作品は目次からどうぞ♪






『釣った魚に餌はやらない』
とはよく言われる慣用句であるが、高野の場合はその真逆だった。
5年続いたエミとの交際は、つかず離れずの社内恋愛で、それぞれがコンパに出かけたり新人社員にちょっかいを出してみたり、ほどほどに遊びながら<とりあえず>キープとしてのお互いの存在。
そして5年目、エミが『出来ちゃった、どうする?』と聞いてきた時点で、結婚しようということになり、急遽結婚したのが昨年5月。
10月には子供が生まれ、今では子煩悩で妻一筋の家庭人に納まってしまったのには、周囲はもとより妻のエミ自身にも驚きの事実だったりする。

高野は子供が好きだ。
弟を自分の手で育てた自負もある。そして今度は己の血を引くほやほやの赤ん坊が手に入り、めらめらと父性本能に目覚めてしまった。
「今日どう?」と飲みに誘われても、接待以外は出歩かなくなったしましてや、コンパなんて今ではありえない。
「ちょっと、こんな俺ってどうよ?」
とは思うものの、家庭の持つ魔力にはかなわないのだ。まさに新婚さんいらっしゃーい状態。
高野の妻のエミは二つ下の26歳。ちゃきちゃきの江戸っ子だ。下町の商店街で育ち、喧嘩っ早いが人情もあり、会社でも姉御肌で通ってきた。
「健って笑えるっ!もうさ、会社辞めて主夫する?あたしより料理巧いし、掃除できるし、子育てだって。あたしって楽チン!いい亭主もらったわー」
「それもいいが、俺には乳がでないっ。くっそー!父親ってぜってー損!」
笑いながら、夕食を囲む日々。
穏やかな日常が過ぎる。



幹と渉のことを知って3週間が過ぎた。
冬の最後の雪が降っていたあの日が遠い過去のように、暖かくなった風に春を感じる。
金曜日ごとにそわそわしてしまうのは、耳の奥でいつまでも染み付いたように残っている声のせい。−−今度一緒に・・・・・・・週の金曜・・・・・時さっきの場所で・・・
思い出せないもどかしさ。
「高野さん、ボーっとしてどうしたの?」

年度末の予算を勝ち取るために、日参していたS大付属病院。
夕方の外来は閑散としていて、廊下の電気もほとんど消されている。大きな商談がまとまったついでに、保守点検も怠らない。
「あ・・・大将先生・・・すいませんっ」
「ふふ、ボーっとしている高野さんもいいですねぇ、子供のような顔をしてましたよ」
「う、笑わないでくださいよ、ちょっと前にね、誰かと金曜に呑みに行く約束をしていたんですけど・・・どうしても場所も時間も誰かも思い出せないんです・・・これってヤバイですかねえ?アルツハイマ?」
大将は大きく目を見開いた。といっても眼鏡越しには分からなかったけれども。
(あ、覚えてるんだ・・・)
瞬間、顔の温度が上がるのが分かる。

「い、いや、アルツじゃないでしょ。きっと重要な約束じゃなくて、忘れてもいいようなものだったんですよ、それにほら、もし接待だったら確認の電話なんかあるでしょうし、コンパだったら一緒に行く人がいるでしょうし」
「そうですよねぇ・・・うん。きっと電話来ますよね・・・・・でも今日だったら困るな・・・」
「何でですか」
「あ・・いや。今日私の誕生日で。妻がケーキ作って待ってってくれるんです」
「そりゃ・・・おめでとうございます。おいくつになられたんですか?」
「えぇと、27じゃなくて28です」
「え?え?ええ?」
「なんすか?」
「僕より年上だとは思わなかったです・・・僕27で。ひとつ上なんだ・・・なんだかちょっと悔しいんですけど」
「大将先生がふけてるんでしょ」
「うわっ、童顔に言われるとは!僕はふけてるんじゃなくって歳相応なんですっ。そっかー誕生日ですか、何かお祝いしたいなあ、高野さんにはいつもお世話になってるし」
「いやー、お気持ちだけいただきますよ」
「じゃあ、来週の金曜日、約束の誰かの変わりに・・・飲みに行きませんか?」


 6へ←8へ

高野健のアンケートを実施中!よろしくです。

高野健がワキで出ている作品↓
<きのう見た夢 全12話>
続編<キューピットの憂鬱 全2話



大将先生はふけ顔の純情さんらしい・・・最近更新が遅くってごめんなさい。書くより読むほうには待ってます^^;面白い小説多すぎ!っ

参加しています。ぜひぜひぽちっとよろしくね。
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
f2ランキング


こちらもぽちっとな^^   
 
Secret

TrackBackURL
→http://koukonote.blog98.fc2.com/tb.php/73-3213ef95
Copyright ©ギュッとね。 All Rights Reserved.
material by *Design Labo* template byテンプレート配布 lemon lime