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大将の気持ちがどんどん高野に傾倒していくのに対して、高野はその熱い視線に気付くこともなく。


誰からも好かれ気遣いの人と言われ、他人の恋愛には鷹揚、社内の恋愛相談の窓口、それが高野の外での評判。
弟が自分の親友の幹と恋におちたことを知ったときも非常にショックで、やりきれない思いが渦巻き意識がなくなるほど呑んだが、それでも幹を見つめる渉が頬を赤らめ幸せだと微笑んだ顔に、健はすべてを許し、弟を祝福した。
だが、同じように大将の視線が高野に熱く注がれているのにもかかわらず、まったく鈍感なのは、『自分を対象とした男同士の恋愛』に関して、無意識のうちに「気付いてはいけない、深く考えてはいけない」と心の目を閉ざしてしまうからだ。

高野の精神は、弟を意識し始めるようになった瞬間に『男との恋愛はありえない』とすべてのシナプスを遮断したのだ。



金曜の夜、『デートのようだ』と高野に言われて、駅での待ち合わせが待ち遠しく、仕事場でも始終にこやかな大将をナースたちは不思議そうに見ていた。
同じ家に住んでいるのに、外で会うのが嬉しくて、健の一言で浮いたり沈んだりしてしまう自分が滑稽だとは自覚しているが、にやつく顔を止められない。

「お待たせしました」
お互いスーツ姿のまま、いつものように居酒屋で食事を済ませコーシュカに向かう。
ほとんど素面のままの高野をコーシュカに連れて行くのは、すでに冒険の域だ。



「ああ、ここだ、本当にわかりにくい扉だ」
黒いシンプルなドアは、コーシュカとカタカナで書いてある上に小さく [кошка] アルファベットに似た文字が並んでいるが、高野には読み取れなかった。
奥の薄暗いテーブルは金曜の夜と言うこともあって、すでに埋まっており高野はまるで通いなれたようにカウンターの端から二つ目に座った。
大将は、そんな高野をテーブル席の視線から守るように、店内側の隣に座り、高野の隣の空き席に無造作にバックを置く。

いつもの背の高いバーテンダーの横に、今日は長い金色の髪の青年がたたずむ。
「あれ、珍しいですね」
高野は大将が親しげに話しかける先を目で追うと、淡い碧色の瞳と目が合った。
「こんばんは、コーシュカです」
流暢な日本語に、高野があっけに取られていると、大将がにこやかに紹介してくれた。
「店のオーナーのコーシュカさん、ロシア人だよ、友人のタケルです」

「と言っても、母が日本人と再婚して小さい頃に来たので、ロシア語は得意ではないんですよ」
「あ、ああ!店の名前!あなたの事だったんですね、その若さでオーナーとはすごいですね」
コーシュカと呼ばれる麗しの青年は、
「店の名前が先なんですけどね」
と言ってくすくす笑った。

コーシュカが、テーブル席にカクテルを届けるためにカウンターから出ると、170センチほどのほっそりとした体に高野の目が釘付けになっている。

大将は、そんな高野にむっとしながらオレンジ色のカクテルを一気に煽った。
「・・・・健は、コーシュカのような人が好みですか?」
「あ?いやあ、綺麗な人だなあって思ってさ、男の人でもあんな色気が出せるもんなんだな」

大将は目を見開いて高野を凝視する。
(この人は何を言っているんだろう?あなたの色香が余りに危ないからこうやって見張っていると言うのに)
「あなたも綺麗だと思いますよ?」
「へ?お前、なにいってんの?お前の目は腐ってるなあ、綺麗って言うのは彼みたいな人の事を言うんだし」
「じゃあ、かわいいです」
「あのなあ!お前、俺、お前より年上!かわいいって言うのは渉の様な奴を言うんだし」
「じゃあ、僕もかわいいんですか?この間、渉よりどうのって言ってましたよね」
「渉にかなう奴なんていないのっ!お前はかわいげがないっだろ」
冗談のような掛け合いであったが、大将は弓矢で打たれたようにショックを受けた。



「・・・・やっぱり、渉クンは特別なんですね」
2杯目のキス・イン・ザ・ダークに口をつけながら、大将はポツリと呟いた。
「・・・・お前、今日なんか悪酔いしてないか?それよか・・・この店って・・・男ばっかりのような・・・・・」
「・・・・ゲイバーですよ・・」
「・・・・あ?あ?だから?あわてて俺止めたの?」
「・・・そうですよ、あんたみたいな綺麗でかわいい人、すぐに誰かにお持ち帰りされちゃいますよ」
「お前、目が悪いって。バツイチ寸前の子持ち親父に誰が懸想するんだよ」
高野は、相変わらずのんきにがははと笑った。

それから。

「お前は渉の代りにはなんないけど、仕方ないから俺の弟の一人にしてやるよ。・・・渉はもう人手に渡っちゃったからな」
そういって、頬杖を突きながら、大将を覗き見てにやりと口元をゆがめた。


高野はその言葉がどれほど大将の背中を押すかなどまったく無頓着である。


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高野はいったい何を考えているのやら・・・(´。` ) =3

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