最終話です〜^^
過去の作品は目次からどうぞ♪



「俺・・・はやまっちまったか?・・」

三度往かされ、さらには浴室に連れ込まれ、『後処理』だという初めて聞く単語を教えるのだと大将の指でまたも追い上げられ、結局はそこでやはり一回やられてしまった。やられるというよりは、懇切丁寧に天国を見させていただいたわけで。
浴室から出た頃には、まだ日も高いというのに、気分はすでに深夜。まともに歩くことすらままならない。



高野は激しく後悔している。




「やっぱ、あの雪の日は最悪だったんだ」
「あの日、休日出勤さえしなければ・・・・こんなエロ大魔神に魅入られることもなかったはずだ」
「ああっ・・・・くそ・・・腹減った」

何もない部屋に呆然と座り込んで、コンビニに昼飯の買出しに出かけた大将を今更ながらに恨めしく思う。
「もう当分しないっ。キスもしないっ」
うつむき首を激しく横に振りながら、決意を口にする。




大将とのセックスは高野の価値観を根底から覆した。いうなれば、今までしてきたセックスは体の表面をくすぐる程度のものだったような気がする。体の奥から湧き上がる掻き毟りたくなるほどの相手が欲しいという欲情を、一度として感じたことはなかった。


大将の耳元でささやく『好きです』という言葉が、脳裏にこびりついてぐるぐると何度も繰り返される。大将が置いていったスーツのジャケットを枕にすると、大将の体臭が漂ってくる。鼻腔をくすぐるそれに、朝からの行為で敏感になっている体の芯がズキンと波打った。



何故にキスが蕩ける様に気持ちが良いのか、
何故に奥の奥に捻じり込まれた大将に絶頂まで追い上げられてしまい、その違和感すら快感に思えてしまうのか、
何故にジャケットの匂いだけで体がうずくのか。



---高野はもう知っている。



「・・・・ ひろぉ・・・・俺はもう後戻りできねえからな・・・・・」

だけどやっぱり。
「あいつは年下の癖に生意気だっ・・・・真性が何だって言うんだっ」
言葉にしないのは、高野にとって最後の砦を死守するためだ。
「絶対に、言わない、絶対に、絶対にだ」


相手のペースに乗せられてたまるかっと決意を新たに
「もう当分しないっ。絶対しないっ。キスもしないっ」
と声高々に宣言する。が、覚えたての高揚感は他人に厳しく自分に甘く。
「・・・・・・・・・・・・・まぁ、キスくらいなら・・・・・・あいつ上手いし・・・気持ちいいし・・」




ゆっくりと立ち上がり窓を開けると、側面の道路から大将がビニール袋片手に早足で駆けるように帰ってくるのが見える。
夏の名残の暑さを取り払う秋の風が、部屋の中に涼やかな空気を運んできた。

「あ・・・」

甘い甘い香りが部屋中に漂う。香りに誘われベランダに出ているといつの間にか、部屋に戻った大将が不思議そうに話しかけた。

「健・・・・どうしました?」
「香りが・・・甘い香り・・・」
「ああ・・・隣が新しい泰三の秋元病院になるんですが。マンションの間に中庭があるでしょう?ほらあの木、金木犀ですよ。昨日までは全然だったのに今日はいっせいに開花したようです・・・通りを歩いていても街中が金木犀の香りでいっぱいですよ」
「ああ、金木犀」
甘い香りに酔ったのかとろんとした表情の健を後ろから抱きしめると大将が健の肩に顔を乗せ耳元で話を続ける。


「本当にいい匂い・・・健みたい・・・甘くて蕩ける」
「っ馬鹿やろ」
「この香りの続く間・・・僕と愛ちゃんの誕生日まで僕らの蜜月時ですよね。愛ちゃんが来たらしばらく愛ちゃんに健を貸し出すけど、それまでは僕を一番にしてくださいね」
「蜜月時って・・・一番って・・・・ありえないっ・・・お前は永遠の3番!愛と渉の次!・・・・っあ」



このとき高野が大失敗を犯してしまったのを、大将が見逃すわけがない。

「愛ちゃんと渉くんの『血のつながった家族の次』の3番ですよね」
にやりと笑う大将に、高野は凍りつくような寒気を感じたのだが、すでに後の祭りだった。



大将のペースに取り込まれないように、あわてて弁当を食べに部屋に向かう。
「あのな、ちゃっちゃと昼食べたら前の部屋の荷物取りに行って鍵を管理人に返さなきゃいけないし、この部屋の家具を決めに行って、今の部屋の荷造りしてやることはいっぱいあるんだからな。借りてきたDVDもたまっているしっ。そうそうお前になんか付き合っていられないんだからなっ」

高野は極力冷たい顔で邪険に言い放つ。怒りに任せた言葉を浴びせかけられても、大将にはその一言一言がなぜかかわいくって仕方がない。

「はいはい、じゃあ引越し準備がんばりましょ。『二人の愛の巣』を完璧に整えなきゃね、なんたって『生涯の伴侶』として暮らすんですから、そのうち『海外で挙式』くらいしたいですよね」


「・・・なっ」
高野はあんぐりとあいた口がふさがらない。
この厚顔無恥な男には何を言っても暖簾に腕押し、馬の耳に念仏。妄想が暴走している。




「やっぱ俺、かなり間違えたかも・・・」





金木犀が香るこの部屋で、高野健は新しい生活を始める。
もうすぐ1才になる娘と、なぜか懐かれてしまった年下の男と家族として、長い長い時間をすごすことになるのだ。


部屋に戻りながら大将は囁き続ける。
「好きです、ねえ、めちゃくちゃ好きですよ、誰よりも好きですよ」
後ろから触れるだけのキスを続けられると、高野のほうがじれてしまう。
くるりと振り返り、がしりと頭を引っつかみあの蕩けるキスを欲して、自分から舌を差し入れた。


返事の変わりに、甘いキスを。


2月の終わりに降った雪は、二人にとっての出会いの奇跡。10月に香る金木犀は二人の始まりの奇跡を忘れずに思い出させてくれるだろう。



それは、もしかして、いや間違いなく高野にとっては 『最低で最悪』 な出来事なのかもしれないけれども。


<金木犀の咲く頃に。fin>
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またまた留守にして更新遅れすいません。とうとうラストでした。いかがでしたでしょうか?大将センセ・・・黒いかも・・・高野いいのかっ!・・どきどきなのでぜひぜひ、感想など聞かせていただけると嬉しいです。そのときには一発踊って見せます^^

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